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走らない買い物

私の職場は
毎週月曜日にお昼を買いに行く。

どこのお店に行くか、誰と行くかは毎回異なる。

 
「今日真咲さんは利用者Aさんとお願いします。」

そう言われて
ついに来たか、と思った。
ついにだ。

 
私はAさんと月曜日に買い物に行くのは初めてだった。

 
数々の伝説は聞いている。

店内を走りまくり
お弁当や惣菜などの蓋を触りまくり
お気に入りの店員さんの元へ行き、過剰に挨拶し
職員が止めれば
バッグや上着を投げて
そのまま逃走するとか。

醤油やガリなどをたくさん持っていこうとするとか。

 
私の職場は
基本的にグループ単位で動く。
例え同じお店に行くにしても
各グループごとに別行動だ。

 
だけど
だから
同じお店で走りまくる同僚とAさんは何度も見たことがある。

 
それがいよいよ、か。
いよいよ私の番だ。

 
 
私はAさんと共にスーパーに向かった。
その日は霧雨が降っていた。

Aさんの足は速い。

 
他の利用者と行く際は30分くらいかかるのに
わずか15分で着いた。
大したもんだ。

「お店ではマスクを外さないよ。」

と、私は伝え
Aさんと入店した。
Aさんはマスクを外しがちだからだ。

 
さて、内心ドキドキしながら手の消毒をし
店内に入った。

だが、走らなかった。

 
噂通り
色々なお弁当の蓋を触ったり
ファミリーサイズのおかずを買いたがったり
醤油などを大量に持ち帰ろうとはしたが
だが
落ち着いていた。

いつもなら興奮していたり、衝動的なのに。

拍子抜けとはこのことだ。
買い物に行って走らなかったのは初めてなのだ。

 
大きな問題はなく
買い物は無事終わった。

 
戻ったら
「このお弁当じゃ太るよ。」等Aさんに周りの職員が言い
私まで咎められた気がしたが
私からしたら
店内を走らずに買えただけでものすごく偉いと感じる。

 
「マスク外さなくて偉いね。」
「店内歩けて偉いね。」

私は二人きりの時に
繰り返し何度も褒めた。

Aさんはニコニコ笑っていた。

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