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40代最初の日
夢を見た。
今の職場の利用者と過ごしていた時、手伝ってくれたのは前の職場の同僚だった。
そんな夢だった。
40歳になった日、私は相も変わらず仕事の夢を見た。
今の職場と前の職場の狭間にいまだにいる。
退職してから、もう5年も経つのに。
朝、スマホを見ると誕生日おめでとうLINEが数件来ていた。
また、LINEやX等SNSアイコン表示の画面は誕生日仕様に変わり、私の誕生日を祝ってくれた。
40歳の朝が始まる。
両親とは昨日の話は引きずらず、日常会話をしてから出勤した。
出勤後、新施設長から「お誕生日おめでとうございます。」と言われて驚いた。
四年目になるが、言われたのは初めてだった。
毎年新施設長にお祝いの言葉を伝えていたから、意識が変わったのだろうか。
今年の誕生日、直接おめでとうと言ってくれた最初の人は、まさかの新施設長だった。意外だった。
前の職場は、同僚も利用者も私の誕生日を覚えていて直接祝ってくれたが
今の職場で私の誕生日を覚えている人は誰もいない。
いつもと同じ朝が始まり、出勤し、仕事をする。
それだけだと思っていた。
日中、LINEやX経由で次々とお祝いのメッセージが届く(プレゼントも色々いただきました。ありがとうございます)。
久しぶりの方からもあった。
ありがたい。
こうしてお祝いしてもらえると嬉しく思う。
お母さんからもLINEで来た。
それには笑った。
朝顔を合わせたし、帰ったらまた会うのに。
そんな中、親友から春に引っ越すと連絡が入り、私は目を見開いた。
場所は職場の近くだった。
私はビックリした。まさか誕生日にそんな嬉しい話が聞けるとは。
最大の誕生日プレゼントだと思った。
仕事帰りにも気軽に寄れるし、休日も会いやすくなる。
今は片道2時間くらいの場所に住んでいるだけに、嬉しかった。
ただ、親友からしたら子どもの幼稚園問題が切実だった。
引っ越し予定はなかったため、既に幼稚園を決めていたが、春に引っ越しとなると早めに幼稚園を決め直さなければいけない。
幼稚園は大抵12月が申し込み締め切りだと同僚が言っていた。空き状況も確認必須だ。
「この辺の幼稚園が全然分からないよ。誰か周りに詳しい人いない?」
親友にそう聞かれたため、私は力になりたいと思った。
誕生日の日は一日平和で、仕事中、特に大きな事件は起きなかった。
いつものように利用者と笑って過ごした。
今年に入ってからサービス残業の量も減り、早めに帰宅できるようになったのもありがたい。
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帰宅前に某同僚に、近隣の幼稚園でオススメの場所はあるか聞いた。
私も親友も、この辺の幼稚園の事情は詳しくなかった。
すると同僚は、こう言った。
「うちの職場で一番詳しいのは元リーダーだし、LINEしてみたら?」
…考えもしなかった。
確かにリーダーと奥さんは幼稚園の免許がとれる学校卒業だし、奥さんは幼稚園勤務だし、お子さんは幼稚園に通っているし、この辺の幼稚園事情に一番詳しいのは間違いない。
うちの職場の同僚で子どもが小さく、職場近くに住んでいる人はごくわずかで、その人にももちろん幼稚園事情を聞いたが、あまり詳しくはなかった。
ただ、私は退職後にリーダーと全く連絡をとっていなかった。
当時、もともとリーダーとは仕事の件くらいしかLINEしなかったし、たまにリーダーから送られてくるのは虫の画像くらいだった。
私とリーダーは虫が好きで、時折虫のマニアックな話で盛り上がったのだ。
かつてリーダーはあまり電話やLINEはやらない方だといっていたし、好きではないと言っていた。そしてLINEからもそれは感じた。
リーダーが今どんな状況か分からない。
私や元職場をどう考えれるか分からない。
こんな用件で連絡をとっていいか分からない。
悩んだ。
迷った。
だが、親友の力になりたいし、誕生日で気持ちがハイにもなっていた。
同僚の言葉が背中を押した。
私は勇気を出してLINEをしてみた。
まぁ分からないなら分からないでそう言うだろう。それならそれでいいのだ。
ダメ元でLINEをしてみただけだ。
仕事が終わった瞬間、ドキドキしながらLINEをし、やがて既読にはなったがしばらく返信はなかった。
更にドキドキしながら待つと、やがてLINEが来た。
リーダーからだった。
なんとリーダーは5箇所以上の幼稚園の特徴を細かに教えてくれた。
ビックリした。
どの同僚に聞いた時よりも丁寧で具体的だ。
かなりの長文だった。
打つのも大変だっただろう。
リーダーは夕飯を作るし、時間帯は夕飯時だし、仕事やら家事やらで忙しかったろうに
退職以来連絡をとっていない元同僚からの質問にこんなに真摯に対応してくれるなんて。
…私は涙が込み上げた。
お礼を伝えた。
それでやりとりは終わりだと思っていた。
だが、リーダーはその後もこんな風に伝えてくれた。
「もっといい所あるかもしれないので、余裕があるなら見学や体験行けるとなおいいかもしれないですが、頑張ってくださいとお伝え下さい!」
「喜んでもらえて良かったです。また何かありましたら、分かる範囲ですが力になりますよ。連絡して下さい。」
………私はLINEを読みながら、泣いた。
リーダーは、リーダーだった。
退職した今でも、リーダーでしかなかった。
なんてなんてなんて優しいのだろうか。
ビックリした。
まさかこんなメッセージをくれるとは思わなかった。
何度も読み返してはまた、泣いた。
親友から今日引っ越しの話がなければ、同僚からの一言がなければ、私は今日リーダーに連絡はしなかった。
朝の時点では全く想像もつかなかった未来だった。
リーダーを更に好きになった瞬間だった。
帰宅すると、お父さんがケーキをプレゼントしてくれた。
「お誕生日おめでとう。安いケーキで悪いけど…。」そう言いながらお父さんは渡してくれた。
まさかケーキを用意しているとは思わず、ビックリした。
朝お祝いの言葉を言ってくれなかったと私が軽くすねると、「あの時間はまだ生まれてなかったから言えない。」と言った。
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私は1月20日の10:58に生まれた。
青空の日だったらしい。
約3500gの赤ちゃんだった。
生まれた時のエピソードは両親から繰り返し聞いた。
家族からたくさんの愛情を受け取りながら、私は今日40歳になった。
誕生日前日の昨日は複雑な30代最後の日だったが
誕生日当日の今日は嬉し泣き、嬉し笑いをたくさんした40代最初の日となった。
リーダーとの連絡後、久しぶりに友達から連絡が入り、夜寝るまでダラダラとLINEのやりとりをして笑い合った。
こんな過ごし方も久しぶりで、夜眠りにつくまで楽しかった。素敵な誕生日だった。
誕生日翌日。
私はまた夢を見た。
今の職場の利用者や職員と文化祭をする夢だった。
多分今日が誕生会なので、その意識があったのだろう。
昨日お祝いされた私は、今日は職員として、今月誕生者の利用者を祝い、レク準備をし、司会進行をして盛り上げた。
利用者がレクを楽しんでくれて嬉しかった。
レクの内容は毎回変えるので反応が心配なのだが、保護者や上からも褒められ、ホッとした。
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40代も容易くはないだろう。
きっと色々なことが起きる。
それでも、頑張ってみよう。
楽しいことや好きなことに真っ直ぐに進もう。
そう思った、40歳の朝。