
無茶ぶりに応える同僚
同僚が言っていた。
「私は無茶ぶりに応える人なんですって。」
付け加えてこうも言った。
「新施設長からそう言われたんです。無茶ぶりに応える人だって。でも、それ以外の要素もほしいですね。」
その同僚は私より後に入職した唯一の後輩だ。
年齢的にも年下なので、私は物事を頼りやすい。
その同僚を私はマグロのような人だと思っている。
ジッとしていない人なのだ。
気が利いて何かしら動いている。
仕事をせずにはいられない人のイメージだ。
私より後に入ったが
どんどん仕事を任されているし、仕事が増えているし
気が利くし
前施設長とも新施設長とも相性が良さそうだった。
それは私の密かなコンプレックスだった。
手作り製品が主の職場において、手先が器用ではない私は主戦力にはなれなかった。
前施設長にも新施設長にも苦手意識を持ち、相性がよいとは言えない私は
その同僚が羨ましかった。
だけどそんな気持ちをリーダーに言うと、「ただあの同僚は気が利きすぎて仕事をやり過ぎてしまう時がある。」と言っていた。
確かにその同僚は気が利く半面、人の役割の仕事でさえ手を出してしまうことがあった。
また、雑でもあった。
自分から手伝うと言って失敗してしまうことがたびたびあった。
私はそれが怖くて「なんでもやります。」とは絶対に言えなかった。
下手に手伝い、しくじり、失敗し、人の仕事を増やすのが嫌だった。
私は私にできることをやり、人の仕事でできなさそうなことは手伝わないようにしよう。
私はそう思っている。
よく言えば慎重で、悪く言えば臆病だ。
そんな自分が好きだが
その同僚のできなくても挑戦する性格は羨ましくもあった。
前施設長も新施設長も、私のような性格よりその同僚の性格を好きなのは明らかだった。
そんな同僚は私に言う。
「真咲さんは引き出しが多くてすごいですよ。話題豊富ですし、好きなものがたくさんあって多趣味ですよね。」
「利用者も真咲さんに懐いていますよね。私と真咲さんだと利用者の反応が違いますし。」
「真咲さんは販売上手ですごい。私は人前になるべくなら立ちたくないです。」
「真咲さんは仕事が丁寧で真面目ですよ。私は雑だから。」
その同僚は私をよく見て知っているなぁと感心した。
確かに好きなものが多く、利用者と色々な話ができるところや販売、利用者に好かれているところは私の強みだと私も思っている。
私は前施設長や新施設長との関係性は同僚に劣るが、利用者との関係性においては同僚より自信があった。
職員ごとにそれぞれに違う強みがあって
それが仕事に活かせたらいい。
そして私の数少ない良さや強みが前施設長と新施設長にも伝わって、評価されたらいいのにな。