2022/06/28【クルド人問題】トルコのエルドアン大統領が交渉に利用するクルド人問題【世界情勢】#78
今回は、前回トルコのエルドアン大統領のお話をした時に、北欧2か国のNATO加盟反対の理由に使ったクルド人の問題、この問題は近年アメリカも深く関与してきましたので、前回はサラッとしか話さなかったこのクルド人問題を分かりやすく解説したいと思います。
クルド人に関して
クルド人というのは、中東のトルコからシリア、イラク、イランにまたがった、山岳地帯に住むイラン系の民族のことを言います。御想像の通り、政治的には非常に不安定な地域で、人口は推定3000万人と言われながら、これ実はサウジアラビアと同じ規模ですが、同時に「国を持たない最大の民族」と言われています。
こうなった理由は、100年前の西欧の都合に端を発していて、1916年、第一次世界大戦末期に、当時の強国だったイギリスとフランスとロシアが、敗北国であるオスマン帝国をどう分割するか、という協定を結びました。これはサイクス・ピコ協定と呼ばれていますが、これは当時の2大植民地大国であるイギリスとフランスが、戦後の自分達の権益を確保するために勝手に決めたもので、この時にクルド人が無視され、クルド人が住むエリアの真ん中に線を引いて、その後、列強の都合で、トルコの国境を決め、そしてイラクやシリア、ヨルダンなどの国を誕生させていったのですが、クルド人は最初の線引きが尾を引いたことと、トルコが必死に領土分割を防いだこともあり、民族として国を持てず、結局クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランという4か国にそれぞれ分割されるという、日本人には想像できない不幸な形となりました。
その後、それぞれの国で、少数民族として扱われながら、独裁者や強権政権、過去はサダムフセインのイラクや、シリアのアサド政権、そして今はエルドアン大統領のトルコなど、に対して分離や独立を求めていく訳ですが、それぞれの国は自国の領土分割に繋がる話を認めませんし、一方でこのエリアには、今でも数億バレルの石油が埋蔵されると言われている大権益の眠るエリアですので、一部のイラク領土内にあるクルド人自治区を除けば、まだまだ独立には長い道のりが続くと見られています。
トルコとクルド人
ここでトルコですが、トルコには最も多くのクルド人が住んでいて、その数は1500万人と言われています。これ人口比率でいうと20%近い割合ですが、トルコでは、山岳トルコ人と呼ばれてクルド人として認められずに、クルド人の若者の失業率も3人に2人ということで社会問題としても大きいものとなっています。
そして今国際的に起こっている問題は、このトルコに住むクルド人の一部が1980年前後から過激武装化して、トルコ内でテロを含む武力闘争をしており、累計で4万人の死者が出ている状況となっています。彼らはクルド労働者党(PKK)と呼ばれている組織で、アメリカやEU、そして日本も、このPKKをテロ組織として指定しています。エルドアン大統領としては、当然PKKを掃討すると言うことで、極端に言えば内戦状態となっており、PKKが逃げ込んでいるイラク北部に対し越境攻撃を加えている状況にあります。
実は今、この攻撃が激しさを増していて、5月には1年ぶりにトルコ軍の地上部隊をイラク北部に投入しました。これはれっきとした軍事行動ですが、前回も述べた通りエルドアン大統領としては、国内のテロ組織を壊滅することによる「国民を守る強い大統領」というアピールもあると思います。
そして、北欧2か国のNATO加盟反対の理由が、このPKKと近い「クルド人民防衛隊」YPGと呼ばれる組織をスウェーデンが支持しているのでは、ということがエルドアン大統領の反対の口実ともなっています。ここはロシアに恩を売り、国内支持へのアピールという政治的な部分が大きいと前回述べましたが、ただ、このYPGは、IS、イスラム国掃討作戦の際に、アメリカもずっと支援してきた組織です。次回、アメリカのこれまでのこのエリアに対する大きな関与とその失敗の歴史について説明をしたいと思います。
今回の内容を動画で見たい方はこちら↓