見出し画像

死にたかったんだ、本当は 8 (最終回)

『僕が死のうと思ったのは』
作詞 秋田ひろむ

僕が死のうと思ったのは
ウミネコが桟橋で鳴いたから
波の随意浮かんで消える
過去も啄んで飛んでいけ

僕が死のうと思ったのは
誕生日に杏の花が咲いたから
その木漏れ日でうたた寝したら
虫の死骸と土になれるかな

薄荷飴
漁港の灯台
錆びたアーチ橋
捨てた自転車
木造の駅のストーブの前で
どこにも旅立てない心
今日はまるで昨日みたいだ
明日を変えるなら今日を変えなきゃ
分かってる
分かってる
けれど

僕が死のうと思ったのは
心が空っぽになったから
満たされないと泣いているのは
きっと満たされたいと願うから

僕が死のうと思ったのは
靴紐が解けたから
結びなおすのは苦手なんだよ
人の繋がりもまた然り

僕が死のうと思ったのは
少年が僕を見つめていたから
ベッドの上で土下座するのは
あの日の僕にごめんなさいと

パソコンの薄明かり
上階の部屋の生活音
インターフォンのチャイムの音
耳を塞ぐ鳥かごの少年
見えない敵と戦ってる
六畳一間のドンキホーテ
ゴールはどうせ醜いものさ

僕が死のうと思ったのは
冷たい人と言われたらから
愛されたいと泣いているのは
人の温もりを知ってしまったから

僕が死のうと思ったのは
あなたが綺麗に笑うから
死ぬことばかり考えてしまうのは
きっと生きることに真面目すぎるから

僕が死のうと思ったのは
まだあなたに出会ってなかったから
あなたのような人が生まれた
世界を少し好きになったよ

あなたのような人が生きてる
世界に少し期待するよ

なんちゅう歌詞なんだよ…。
痛いほどわかるちゅうんだよ…。

僕が死のうと思ったのは
靴紐が解けたから
結びなおすのは苦手なんだよ
人の繋がりもまた然り

の下りで、え?ADHDですか???とか思っちゃったよ。

そのピンク頭くんの、陰と見た目のギャップとが相まった歌声を聴きながら、『ぐるりのこと。』って映画を思い出したんだ。そういえば、これもリーちゃんに激推しされて観たんだった。ちょっと長めの映画で、二時間二十分なんだけど、観出してからしばらくして、なんでリーちゃん薦めたんだろ?超絶ダルいんすけど…重い暗い落ちる…と、何度も停止ボタンを押したくなりながらも、ちょっとと軽い気持ちで登り出した山路だったのに、いつまで経っても頂上に辿り着けず、でも引き返すのも勿体なくて、やっぱり登ろうと思う心理と似てて、もう少し、あと少しと思っていたら!今まで白黒だった世界がいきなりカラーになったかのような、物凄い転換が起こって、スゲー!!!ってなったんだよね。リーちゃん、やっぱ最高す。
で、観た当時の僕は、まだ鬱は未経験だったんだけど、これがまた主人公の木村多江さんが鬱になってから鬱抜けする過程とその後が描かれていて、そのカラーになる切り替えのシーンが、炊飯器の蓋を開けて、そこから立ち昇る湯気と炊き立てのご飯の香りという、些細な日常でしかない風景から見出す喜びを、表情だけの演技で魅せるという神技で、それ以来、木村多江さんは大好きな女優さんの一人なんだ。

遺書のつもりで書き始めて、下らない僕の人生を赤裸々に綴って、確執はあったものの、結局は、ゲイで精神障害の息子を受け入れてくれた父への感謝を込めた文章は、最終的に二十二万文字にもなってしまって、原稿用紙に換算すると、五百五十枚という、読まされる方も堪ったもんじゃないであろう代物を、死ぬ気が失せた今、どう扱っていいんだかわからずに、でも、あんなに辛くて泣きながら書いたんだし、書き上げられたんだから死ぬ気が失せたわけだから、書き上げるための、「で?との闘い」を教えてくれた、リーちゃんに読んでもらおうと、迷惑この上ないのも承知の上で送ってみたら、「チェネエ、これすんごく面白いんだけど~。なるほど!って部分も、あ!そっかって箇所も、いっぱいあって、チェネエの言語化能力に更に磨きが掛かっててさぁ。書籍化して、若い子たちに読ませたいと思ったよ」って感想を送ってくれて、え?オモロかったの?そっちなの?意外~って思ったんだけど、別に笑えることだけが面白いってわけでもないんだもんね。

書籍化かぁ。
書籍化ねぇ。
そんなこと考えもするわけないじゃんね。だって遺書のつもりだったんだから。
でも、なんかの賞に応募してみるのも面白いかもねと、ネットで調べてみると、こんなに様々な文学賞が存在するんだ!って驚かされて、その中でも趣旨に合いそうなものを選んでみると、原稿用紙五百枚まで、とあって、えー五十枚も削るのは無理~と、まぁダメ元で持ち込み原稿可能という出版社を何社か見付けて、とにかく送ってみようかと思ったんだよね。
でもその前に、数多くの実在の人物が登場してるから、その旨は確認取らなきゃだわ、と、せっせと「私小説みたいなものを書いてみました!不都合あったら仰って下さい」と、送ってみたら、皆さん、「問題ないです」との回答で、え?こんな赤裸々な内容にものにアナタが登場しちゃったらリスキーだと思うんですけど…と、再度念押しをしても、「全然大丈夫だよ」ってことだったので、なんかジーンとしちゃってね。

よし!
と、数社のフォームに書き込んで、送信。

それから数週間後、僕の部屋の掃き出し窓から続く、ウッドデッキから遠景に見える、堤沿いの桜も散った冒頭の時節、件のメールを頂いた。
読み直し読み直し、それでいいと思った。
決して万人受けする内容ではないと思っているし、賛否が分かれるだろうとも思っている。
とにかく書き上げられたことで満足したのだから、あとはオマケでいい。

*何故、『そんな父へラブレター❤️』を書こうと思ったのか、をフィクションを交えながら、また、文体も変えて書いてみました

おわり。

いいなと思ったら応援しよう!