ー詩と形而上学ー0.1
白夜
乾燥した花弁の詰められた化粧箱の中にある
十月の心音を録音して、BGMにしている
あなたの欲しいものは何色をしていますか
重ねられた嘘だって積み上げて逆立ちしたら
それ相応のものにはなるのだろう
壊れそうなものほど、疑いなく信じてしまう
都市公団の団地の8階に住んでいる
裏映りをした散文詩を新聞紙に書いている
あの女の子は、優しいお母さんに育てられた
心根の綺麗な子供だった
寂しさも抱き締められた温もりには勝てずに
眠る前にキッチンシンクで歯磨きをしている
換気扇でメンソールの電子煙草を吸っている
時々、長めの溜め息をしながら
濃い目のインスタントコーヒーを飲んでいる
母親としても、女としても、美しいひと
カラフルな世界から、自ら取り残されている
光と影の陰影までもが、柔らかく佇んでいる
換気扇は、ストックホルムの旧市街に繋がり
自分のために生きることに、疲れてしまって
誰かのために生きている人が、其処にいた
「よし、週末は、食器を買いに行こう」と
彼は自慢の料理の腕を振るう準備をしている
テーブルクロスは、慎ましく、微笑んでいる
お腹の脂肪を気にしているが、運動が億劫で
ビールの量を減らそうか、深刻に迷っている
職場では、熟練自動車工として知られている
月に二回は、愛車を丁寧に洗車している
犬の散歩に疲れたら、そっと犬を籠に入れる
顔なじみの肉屋で、リオソーセージを買う
ヨハスが帰宅してレコードを聴き始めるころ
換気扇の向こう側は二十四時を回っていた
母親は、子供を抱いて、ベッドで眠りにつく
明日は雨なので、洗濯物は室内に干している
北欧の街が、白夜の予感を、まだ感じる前に
彼女は眠りの中で子供と遊園地を訪れている
Written by Daigo Matsumoto