64:“スリバス”に乗ってバチカンへ
ローマは古くて美しい街だけど、失笑してしまいそうなこともいくつかあった。人の行動がいちいちおもしろい。関西人みたいな性質なのかな。
ローマはこの時が初めてだったから、当然バチカン市国にも行こうとした。すると、ホテルの人や会う人に必ず言われた。
「スリバスには気をつけて!」
泊まっていたローマ駅の近くのホテルからバチカンまでは、駅前のバスターミナルから一本で行けた。乗車時間もたいしたことない。だけど、そのバスではスリ被害に遭う人が多いため、“スリバス”と呼ばれているらしかった。確かにガイドブックには「極力荷物を持たない」「バッグは前に」といった注意書きがある。イタリアの強盗は暴力的ではなく、気づかぬうちに持っていくコソ泥タイプなことも学習済み。
だから、私たちは手ぶらで出かけた。お財布はポケット、カメラは薄いタイプのだったから斜め掛けして体の前。もともと高価な物なんて持ってなかったけど、念には念を入れた。そんな感じで気合いを入れて挑んだスリバス体験。いざ、バス停に行ってみたら、ひっくり返りそうになった。だって、
スリと思われる方々が皆、同じ服を着てる!
スリらしき方々はとにかく茶色の革ジャンを羽織っていた。いや、革ジャンとかレザージャケットという呼び方はふさわしくない。合成皮革っぽいジャンパー。それになぜか皆、ハンチングをかぶってる。そんな服装で固まって、おしゃべりをしながら獲物が現れるのを待っていた。
ユルい。ユルすぎる。コソ泥ってもっとコソコソしてるのかと思ってたのに、わかりやす過ぎ。若い私たちは大爆笑してしまった。
そして、アジア人の私たちはそんな彼らに捕まる。まずはバッチリ目が合って(笑)、同じバスに乗り込んできた。彼らの心の中はきっと「いいカモみっけ」だっただろう。で、私たちのすぐ後ろに立つ。バスは都内の通勤時間ほどではないけどまぁまぁ混んでいて、スリにはうってつけのコンディション。だけど、私たちはもうわかってしまっていたから、窓の外を向いてスリたちにおしりを向けず、彼らと向かい合って立った。
私たちとスリ達、乾いた微笑みを交わす。
そんなでは彼らはスリできず、バチカンに着く前にプンスカして降りていってしまった。
街を見渡せば同じ格好の人がたくさんいて、語らずとも「私たちはスリですよ〜」とアピールしていた。なんてマヌケな(失礼)。私たちは全然おしゃれじゃないその上っ張りを“スリ組合ジャンパー”と名付けて、見るたびに苦笑いをした。この人たちにスリされる人は、お互い様なんじゃないかな。
そういえば、スリ組合の方々はほぼおじさんだった。妻子持ちだったりするのかな?職業欄にはフリーランスと書くのかな?なんて、歳を取った今になって考えている。おじさんたち、今も元気でいますように。
そうそう、バチカンはすごかった。厳かで人がたくさんいて、教会の中で練り歩きみたいなのも見た。そのくらい。