フランス南西部の街(11)Banyuls-sur-Mer(バニュルス・シュル・メール)
ついにバニュルスにやってきました。
いやぁ、ここはいいですよ。
ぼくはほんとに大好きですね。一番行きたい場所かもしれないです。
さて、バニュルスはスペイン国境まで車でほんの数十分の場所にあります。
小さくてきれいな海岸と緑豊かな山に囲まれた小さな街です。
前回お話ししたコリウールよりもスペイン寄りですね。
ペルピニャン方面からですと、アルジュレスから山に入り、コリウールを過ぎて、ポール・ヴァンドルという港町を過ぎるとその次がバニュルスです。バニュルスを過ぎると次がセルベールという街ですが、これが正真正銘国境の町なので、本当にフランスの西のはずれと言っていいでしょう。
バニュルス・シュル・メール(バニュルス海の上)という名前の通り、この街は海に面して開けています。
アルジュレスやアグドのように、街の本体が内陸にあって海岸沿いは別の街、ということはありません。この海沿いの街がそのままバニュルスです。
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バニュルスと聞いて、「あのワインのバニュルス?」と思われた方がいらしたら、相当なワイン通の方です。そう、バニュルス・ワインは知る人ぞ知るこの地域の名産品なのです。
日照量が高く、乾燥しているため、糖度の高い甘いワインができます。色も独特で、いわゆるワインレッドというより、琥珀色とまでは言いませんが、もうちょっと茶色系統の色が濃いくすんだ色をしています。
このあたりでも高級品なようで、普段はあまり飲まず、何かのパーティーの時などにバニュルス・ワインが振る舞われていました。(「おお、今日はバニュルスか!」みたいなノリでした)
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バニュルスで有名なのは彫刻家のマイヨールです。海に潜るジャック・マイヨールではありません。アリスティド・マイヨールです。このマイヨールが、ここバニュルスの出身なんですね。
ご当地の有名人ということで、ちゃんとバニュルスの山の中には「マイヨール美術館」というのがあります。
結構な山の中で、こんな道を小一時間歩きます。
そして到着した美術館はこちら。
「家・・?」って感じもする、こじんまりした美術館です。
なお、マイヨールの作品は女性をモチーフにしたものが多いのですが、シルエットが比較的ふっくらしていることでも知られており、このあたりではちょっとふくよかな女性のことを「マイヨール」と呼んだりしています(もちろん、本人に言ったりしません、はり倒されます)。
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バニュルスは、実はわたくしの母が南仏に移ってきたときに最初に住んだ街なんです。パリからここバニュルスに移ってきて、その後サンタンドレに引っ越しました。
ですので、わたくしも初めて来た南仏の街はここバニュルスでした。
その時の感動が、やっぱり今でも残っています。
空の澄み渡って深い青、海の吸い込まれるような碧、山一面に広がるぶどう畑の緑の美しさ。
ぶどう畑の中にぽつんとある、1000年近く前にできた、石造りの何気ない小屋。
海を見ながら食べるおいしい食事。
プロヴァンスカラーの壁に南仏瓦のきれいな街並み。
ゆっくり流れる時間。
ここは、住みたいです。いつか住むなら、こういうところだなと思います。
街もそれほど大きくなく、かといってコリウールほど完全に見せるための街ではなく、必要十分な機能を備えながら、人生が美しくあるための全てのものが揃っている、そんなところです。
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そんなバニュルスの魅力はなかなか語り尽くせないのですが、ここは過去に撮った写真がいっぱいありますので、いくつかご紹介しながら行きたいと思います。
まずはバニュルスといえば海です。
この海岸の風景がいかにもバニュルスっぽいですね。
特徴は、正面に見える橋桁のような下り坂です。
コリウール方面から来て、岬をぐるりとまわって、降りてくる道がこれです。
向こうから車で来るときは、岬を回ると同時にこのバニュルスの浜辺と街の景色がぱーんと開けてきます。
浜辺からこの橋桁を見る構図がバニュルスの絵や写真などでは非常にポピュラーだということになっております。
ちなみに、その橋桁の先にある岬の上から海方面を撮った写真がこちら。
この向こうは、アルジェリアかチュニジアか・・・と夢ふくらむところですが、実際にはこの正面はマルセイユとかトゥーロンです。このあたりは、ちょうど、地中海岸が南に向かって曲がっているところなので、東向きなんですね。
なんか、軍艦みたいなのがいました。
この岬の近くにはバニュルス・ワインのお店がありましたね。
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この岬からバニュルスの浜辺をはさんだ反対側はすぐまた断崖になるのですが、その先にちょこちょこっとしたプライベート・ビーチ風なかわいい海岸があります。
結構人気で、みんなやってきて泳いでいます。
がけの上に立っている家があります。
うーん、こんなところに住んでみたいですね・・。
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次は、山ですね。
ちょっと歩くとすぐこんな山の中になります。
そして、ほとんどがぶどう畑です。
たまに、歩いていると収穫中の農家のおじさんがぶどうをくれたりします。
なお、このあたりのぶどう畑は、ほとんどが山の斜面を利用してつくられています。というより、平地がほとんどないんですね。
とても乾いた、石ころの多い土に、背の低いぶどうの木がひしめいているという、この地方独特な畑です。
山の斜面の奥の方は車が入れないので、よく背中にかご背負って、手積みしてる風景を見ることができますね。
一度、知り合いの農場主さんに、畑の中に入れてもらったことがあります。
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山の中を散歩していると、こんな木がありました。これ、何の木かおわかりでしょうか。
これは、コルクの木なんですね。ぼくも実物は初めてみましたが、コルクはこの木の皮をはいで作るんです。なので、この木はもうコルクをとっちゃった後、つまり毛を刈っちゃった羊みたいなもんですね。バニュルスの山の中にはこのようにむしられた後のコルクの木が(もちろん、むしられ前のもあるでしょうけど、むしられ後の方が目につくので)いっぱいあります。
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山の上の方まで登ると(ハイキングがてらすぐに登ることができます)、街が一望できます。
順々に右側(スペイン側)へ・・。
このまわりもみんなぶどう畑なんですよ。
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バニュルスの街も紹介します。といっても街はあんまり写真がなかったです。
メインストリートです。
これは役所かな?旗がカタロニアですね。
マルシェです。ちっちゃいけどまあものは揃っています。
夕暮れの家々。
バニュルス自体は割と高級住宅街です。結構、物件の値段も高めですね。
(なお、母親が最初にバニュルスに住んだときはマンションでした。やっぱり一軒家がいいなということになって、それでサンタンドレに移ったわけです)
なおかつ、リゾート地でもあり、もちろん夏場は大変な数の人々がやってきてにぎわいます。
ビーチ前にはちょっとした広場やステージがあって、なにかしらやってますね。
ホテルやレストランも多いです。
完全にカタロニア地方ですから、クレーム・カタランなどカタラン料理もこのあたりの名物です。
海岸前の広場、なにやらみんな踊ってます(右側のステージには楽隊がいます)
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ここでは、ペルピニャンに出るよりもどこに行くよりも、スペインに行く方が圧倒的に近いです。スペインの方がワインやサングリアなど安いので、よく買い物に行きました。しかし、不思議なもので、一歩スペインにはいると急に道が悪くなります。
バニュルスはSNCFの駅もあるので、来ようと思えば比較的簡単に来れます。
ペルピニャンからなら電車でだいたい35分です。コリウールからは10分、2駅ですね。
まあ、35分なんて、東京と横浜くらいですから、近いものですよね。
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やっぱり、いつかはやってみたいですね。
バニュルスに滞在して
コリウールに遊びに行って
ある日はのんびり山を散歩して
海で泳いで
おいしいもん食べて
マルシェに行って
たまにスペインに買い物行って
を繰り返してすごす、そんな暮らし・・。
なお、これに「大好きなダンスをして」を加えると、まんま当時のうちの母の暮らしぶりになります。
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※この文章は2009年に書かれたものをリライトしたもので、現在では状況が違っている場合があります。ご了承ください。でも多分たいして変わっていないと思います。