![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/59479834/rectangle_large_type_2_15a03adf5008ec345c716716b50bd80e.png?width=1200)
ビロードの掟 第5夜
【中編小説】
このお話は、全部で43話ある中の六番目の物語です。
◆前回の物語
第二章 夜の遊園地(2)
最初どこか遠慮がちだった場も、お酒が進むにつれて次第に空気が和やかになっていく。さすがに6年もの月日が経つと、みんないろいろ変化がある。
神木はどうやら凛太郎たちが卒業して2年後に、大学をようやく出たらしい。その理由を聞くと、「いわゆるモラトリアムってやつを謳歌したかったのよ」とニヤリと笑った。大学を卒業してからも結局定職にはつかず、全国各地をぶらぶらと放浪して、ついには食品系の商社に就職したそうだ。
池澤は昔からセンスが抜群で、学生時代は一見奇抜と思える服もおしゃれに着こなしていた。今回会うとさらにその外見に磨きがかかり、本人の容姿が整っていたこともあってどこか洗練された様相を呈していた。といってもイケメンにありがちな鼻にかける様子など微塵もなく、話しかけると柔和な態度で接してくる。
栗木は大学時代に付き合っていた彼氏と卒業後も順調に交際を重ね、1年後に入籍したそうだ。そのまま新たな命を体内に宿し、昨年母親になったことを淡々と僕に伝えた。学生の頃は私キャリアを重ねてバリバリ働きたいからしばらく子供は作らないかな、なんてことを言っていたのに人間わからないものだ。
学生の頃はみんな今から将来のことなんて考えられないわ、と口を揃えて言っていたのになんだかんだ歳を重ねるにつれて未来というものが少しずつ現実と置き換わり始めた。ようやく自分というものが見えてきて、これからの生き方をそれぞれが模索始めている途中なのかと凛太郎は同窓生の話を聞いて考えた。
酒が進むにつれて頭が次第に痺れたようになってくる。凛太郎はあと一人、本当に会いたかった人物が来てないなと思いながらも酒を煽り続けた。次第に友人たちの話し声のトーンも上がっていき、周囲の音も聞きづらくなっていく。中盤くらいになっておもむろに池澤が声を張り上げた。
「皆さーん!ここで私から報告があります!」
池澤がどこか重々しい様子で口を開いた。凛太郎を始めとして他の面々も固唾を飲んで池澤が次の言葉を放つのを待っている。池澤が妙に緊張しているものだから、その空気が周囲にも伝播した。不思議と凛太郎たちの周りで酒を煽っていた別のグループもその瞬間だけは皆声を顰めるように話をし始めた。──その時だった。バタバタと音がして、ついで姿を現した女性。
開口一番「すいません、うっかり寝坊しました!」と言って、乱れた髪の状態で突如として彼女は現れた。そこにいたのは、今日の飲み会で凛太郎が待ち焦がれた女の子だった。
「おい、優里!俺が今まさに重大報告しようとしていたというのになんだよその登場の仕方は!」
と池澤どこか苦笑いとも戸惑いとも見えるような表情を浮かべた。先程までの緊張感がまるで嘘かのように空気が弛緩した。
後藤優里。彼女は凛太郎の頭の中にある昔の記憶とそれほど変わっていなかった。背は凛太郎と比べると10センチほど低い。どちらかというと可愛らしい雰囲気を纏っており、髪を短くまとめている感じもそのままだ。
おとなしそうに見えるが、意外と頑固。何ともビー玉のようなコロコロとした可愛らしい目と右目の下の小さなホクロが特徴的だった。今日は深紅のひざ丈ワンピースを着ていて、それが彼女によく似合っている。今も尚、凛太郎の心を無性に惹きつける何かを彼女は持っている。かつて時々彼女をキャンパスで目にするたびに、その姿を自然と目で追っている自分がいたことを思い出す。
彼女のどこかハスキーな声の調子と、それに合わない慌てた雰囲気を見て「ああ、懐かしいなこの感じ」と凛太郎は懐かしい気持ちになった。
<第6夜へ続く>
↓現在、毎日小説を投稿してます。
いいなと思ったら応援しよう!
![だいふくだるま](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/23041517/profile_3fe04eefd2c83a34b578cb26241f9475.jpg?width=600&crop=1:1,smart)