【ショートショート】しゃべるトイレットペーパー
ある日、スーパーで普通のトイレットペーパーが買われていきました。トイレットペーパーの名前はトイレッティ。彼は自分が特別だとは思っていませんでしたが、その日の夜、トイレッティに突然声が宿りました。
「おい、僕はなんでここにいるんだ?」
トイレッティは自分がしゃべれることに驚きました。しかし、もっと驚いたのは家の主人の健一でした。
「何だこれは!?」
健一は驚いて、トイレッティを持ち上げてみました。トイレッティは自分の存在意義について考え始めました。
「僕は何のためにここにいるんだ?ただ使われるためか?」
健一は半信半疑でトイレッティと話し始めました。
「まあ、基本的にはそうだな。君はトイレットペーパーだからね」
「そんな!僕にはもっと大きな使命があるはずだ!」
トイレッティは突然使命感に燃え上がり、トイレの外に飛び出しました。
「おい!待て!」
健一を振り切り、トイレッティは廊下をコロコロ転がり、リビングルームまで行き、家族の前で言いました。
「皆さん、僕は見ての通りトイレットペーパーです。でも、ただのトイレットペーパーじゃありません!僕はもっと皆んなを笑顔にしたいんです」
健一の妻、美奈子が最初に口を開きました。
「まあ、なんて素敵なトイレットペーパーなのかしら!」
健一の息子、健太も興味津々でトイレッティを見つめました。
「ほんとにしゃべるの?すごい!」
その時、家の奥から祖母の和子が現れました。
「何の騒ぎだい?」
トイレッティが元気よく答えました。
「僕はトイレッティ!ただのトイレットペーパーだけど、もっとみんなを笑顔にしたいんです!」
和子は目を細めて微笑みました。
「まあまあ、こんなに可愛らしいトイレットペーパーがいるなんて、世の中まだまだ驚きがいっぱいだね」
家族は笑いながら拍手しました。
「うん、確かに君は特別で素晴らしい存在かもしれないな。じゃあ、これからはみんなで一緒に楽しく過ごそうじゃないか!」
健一の提案に皆んなが賛成しました。
こうしてトイレッティは家族の一員として迎えられ、一緒にゲームをしたり、テレビを見たりする日々を送りました。彼はトイレで使われることもなく、家族の人気者となりました。
ある日、家族皆んなでリビングでくつろいでいると、トイレッティが突然真剣な表情になりました。
「ねえ、みんな。僕は外の世界をもっと知りたいんだ。だから、旅に出ようと思う」
家族は驚きましたが、トイレッティの決断を尊重しました。
美奈子が涙を浮かべながら言いました。
「寂しくなるわね。でも、あなたの決断を応援するわ」
健一も頷きました。
「気をつけるんだよ、トイレッティ。君の冒険が素晴らしいものになりますように」
健太もトイレッティに駆け寄りました。
「トイレッティ、また戻ってきてね。僕、待ってるから!」
和子もにっこり笑って言いました。
「世界にはまだまだ驚きがいっぱいだよ。楽しんでおいで」
「ありがとう!この家で過ごした日々は一生忘れないよ」
こうしてトイレッティは、小さなバックパックを背負い、旅立つことになりました。
美奈子が最後に言いました。
「気をつけてね、トイレッティ!またいつでも戻ってきてね」
「ありがとう!さようなら」
家族は涙ながらにトイレッティを見送りました。トイレッティは町を転がり出て、冒険の旅に出発しました。彼の笑い声は風に乗って広がり、家族のもとにも幸せな余韻を残しました。
トイレッティは、どこまでも続く道を前に、楽しそうに転がり続けました。