【ショートショート】羽の付いたボール
俺は福引きで見事特賞を当てた。
しかし受け取ったのはへんてこなボールだった。どこからどう見ても普通のサッカーボールに、おもちゃの天使の羽をくっつけただけの、ちょっと可愛いボールにしか見えない。
特賞の下には、ハワイ旅行や最新の家電など豪華ラインナップ。それに比べて1番当たりのはずのこいつは、見れば見るほど安っぽくてお粗末な商品に見える。
いや、しかし特賞の景品だ。ただのボールであるはずがないだろう。きっと何か凄い秘密が隠されているに違いない。
説明書を読むと『どんなに不器用な方でもシュートすれば確実にゴールに導かれます』と書いてある。
なるほど。それが本当なら確かに凄い。こいつにそんな機能があるようには見えないが、何か仕掛けが施されているのかもしれない。しかし乾電池を入れる場所や充電器をさす箇所は見当たらない。
早速試すべく、サッカーゴールのある公園へと向かった。
俺は助走を付け勢いよくゴール目掛けてボールを蹴った。ボンッと小気味良い音を立てて、しかしサッカーゴールを大きく逸れてその向こうにある藪の中へと消えていった。
俺はワクワクしながら数分待った。
しかしゴールに向かって飛んでいくわけでもなく、何か音が鳴ったり、ピカピカ光ったりするわけでもなく…
何も起こらないのだった。
本当に何の仕掛けも無い、ただただ訳の分からないボールでしかなかった。
馬鹿にしてやがる!何が特賞だ!ぬか喜びさせやがって!
俺はそのまま拾いに行かず帰ろうとした。
「ちょっと待ってくださーい!」
どこからか女の声がする。
「ちょっとちょっと!」
肩に手をかけられるまで、その声が自分に向けられている事に気づかなかった。
「なんですか」
見ると彼女は息を切らし、頬を上気させながらさっき俺が蹴ったボールを抱えていた。
「これ、あなたのですよね?」
両手に持って俺の方へと差し出す。何とも気恥ずかしい限りだ。わざわざ拾ってこなくていいのに。まさかあの下手くそなシュートも見ていたのだろうか。
「あ、ありがとうございます」
「あなたので良かった本当に」
可憐に微笑む彼女はとても可愛いかった。
「あっ、はい。それでは」
踵を返した瞬間、背後から腕を掴まれた。
「な、なんですか!」
びっくりして振り返ると、頬を朱色に染めて彼女は照れ臭そうに言った。
「ふつつかものですが末永くよろしくお願い致します」
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