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【1分小説】 忘れ物回収サービス
「忘れ物回収サービス」というものがあると聞いた。
どうやらこの世には、人が落としてしまった「記憶」を回収し、持ち主に返してくれる業者が存在するらしい。
試しに問い合わせてみると、すぐに担当者がやってきた。スーツ姿の彼は、黒いアタッシュケースを持っていた。
「お客様が過去にどこかで失くした記憶を回収してまいりました」
そう言って開かれたケースの中には、小さなフィルムのようなものが入っていた。差し出されたそれを手に取ると、ふわりと映像が脳内に流れ込んでくる。
子どものころ、夕暮れの公園で誰かと遊んでいた。笑い声、風の匂い、手をつないだ温もり──すっかり忘れていた光景が鮮やかに蘇る。
「この記憶に心当たりは?」
担当者の問いに、頷こうとしたが、口をついて出たのは違う言葉だった。
「……この子、誰だろう?」
懐かしさに胸が締めつけられるのに、どうしても名前が思い出せない。
「またのご利用をお待ちしております」
そう言い残し、担当者は去っていった。
その夜、夢の中で、名前を思い出せない誰かが「ばか」と笑った。