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【ショートショート】煽り運転撃退法



昨今、日本では煽り運転が深刻な社会問題となっていた。政府は対策として、驚くべき法律を制定した。その名も「煽り運転撃退法」。この法律により、被害に遭ったドライバーは車に搭載された「合法ミサイル」で煽り運転をする車を撃退できるようになったのだ。

ある晴れた休日、田中さんは新しい愛車に乗って郊外へのドライブを楽しんでいた。しかしその平和なひとときは突如終わりを告げる。後方から黒塗りのセダンが猛スピードで迫ってきたのだ。ミラーに映るのは、黒光りする車体。低く唸るエンジン音が、まるで巨大な獣が狩りに来たかのような威圧感を放っている。運転手は意図的に速度を上げ、田中さんの車の後ろにピタリとくっつくと、パッシングを連発して煽りだした。

田中さんは深呼吸をして冷静に状況を見つめる。「これが噂の煽り運転か……よし、やるしかないな」
彼の車には最新のミサイルシステムが搭載され、ダッシュボードの赤いボタンが控えめに光っている。押せばミサイル発射……というとんでもないシステムである。とはいえ田中さんは慎重な男だ。法律には「正当な理由がなければミサイルを発射できない」との規定があり、彼はまず車載AIに確認を求めた。

「AIさん、煽り運転の確認をお願いします」

車内のスピーカーからAIの冷静な声が響く。「煽り運転を確認しました。ミサイル発射が合法と認められました」

田中さんは薄い笑みを浮かべながら、赤いボタンに手を伸ばす。

「いっけぇー!!」

その瞬間、車の屋根から小型ミサイルがシュッと発射され、黒塗りのセダンめがけて一直線に飛んでいく。運転手は慌ててハンドルを切るが、ミサイルはしつこく追尾。ついに「ドカン!」と後部に命中する!



……とはいえ、このミサイルは爆発しない。発射されたのは特殊なペイント弾で、黒塗りだったセダンは鮮やかなピンク色に染まり、車体には「私は煽り運転手です」と派手な文字が浮かび上がった。そしてこれはただのペイントではなく、独自開発された「固着ポリマー染料」が瞬時にボディに広がる仕組みだ。この染料は、通常の塗料とはまるで別物で、化学的に強固な結合を生むよう設計されている。太陽光や酸素に触れると分子構造が固まる仕組みで、一度塗着すると耐久性が飛躍的に高まり、数週間は簡単に剥がせない。

さらに、この染料には“防水親油コーティング”が含まれており、水や洗剤、一般的な溶剤を跳ね返し、ペイントの鮮やかなピンク色が消えることはない。

加えて染料には超微細な発光粒子が混ぜられており、夜間になると微弱に光を放つという効果も持たせてある。遠目にも一目で「煽り運転車」と分かるこの光るペイントは、車体全体に浮き上がる「私は煽り運転手です」という文字と共に、昼夜問わず周囲の注目を集めることになる。

「煽り運転手、撃退完了」とAIが冷静に告げる一方で、田中さんはバックミラー越しに停車しているピンクのセダンを確認し、満足げに手を振った。この特製の固着ポリマー染料が効いている限り、運転手はしばらくこのピンク色の烙印を落とすことができず、街中で“見せしめ”のように晒される羽目になる。

だが、次の瞬間、バックミラーに映る煽り運転手が激怒し、車から降りてこちらに向かってくる様子が見えた。するとAIは即座に「回避マニューバシステム」を展開した。

「回避マニューバシステム」は、煽り運転手が逆上して襲ってきた際、安全に距離を取るためのもので、危険な相手から迅速に退避するため、一時的に法定速度を超える「緊急回避モード」を起動する。安全装置が車両の挙動を管理しており、警察が記録を確認することで合法の範囲内に収められている。また、車両は同時に最寄りの警察署へ自動通報を行い、警察署までの安全なルートもナビゲートするのだ。

AIが状況を分析すると、田中さんの車は急加速で相手との距離を一気に取り始めた。法的に管理された範囲内での緊急加速によって、煽り運転手が追いつけない距離まで引き離し、速度が安定範囲に戻ると、田中さんは肩の力を抜き、警察署に向かいながらドライブの続きを楽しむことにした。

こうして「合法ミサイル」と「回避マニューバシステム」は、煽り運転に対する強力な抑止力として機能し、被害は劇的に減少していった。街中にはピンクに染まり、「私は煽り運転手です」と記された車がちらほらと見受けられ、人々はその鮮烈なピンク色を見るたびに、内心くすりと笑いながらも無言の戒めを感じていた。

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