見出し画像

【ショートショート】AI供養



吉村家では、毎年のお盆が家族全員の重要な行事の一つだった。特に父親の誠一は、先祖供養に対して強い思い入れがあるが、社会人になった息子たちはあまり関心が無く、帰省することも億劫に感じているようだった。そこで誠一は一計を案じ、今年は最新のテクノロジーを導入することにした。それが「AI供養マスター3000」だ。


「これで、忙しい現代でも先祖供養を完璧にできるんだ!」と誠一は家族に自信満々に説明する。リビングの中央に設置されたAI供養マスター3000は、伝統的な供養の儀式を一手に引き受ける機能を備えたスーパー家電だ。


家族が半信半疑で集まる中、誠一は誇らしげにスイッチを入れた。AI供養マスター3000は静かに起動し、神聖な音楽と共に「迎え火モード」が開始され、スクリーンにパチパチと音を立てる仮想の炎が映し出された。誠一は「この火でご先祖様が帰ってこられるんだ」と家族に語りかけた。
「これが迎え火か!」と息子たちは思わず声を上げた。
家族全員がその炎を見つめ、心の中でご先祖様が無事に戻ってこられるようにと祈った。


迎え火の儀式が終わると、次にAI供養マスター3000は「供養儀式を開始します」と表示し、誠一が操作を始めた。スクリーンにさまざまな供物が表示され、誠一が選択した果物やお菓子、線香などが仮想祭壇に自動で配置されていった。
「よし、これで完璧だ」と誠一は言い、家族全員が黙祷を捧げる中、供養の儀式が進行していく。


続いて、AI供養マスター3000は、家族の写真やメッセージを先祖に届ける「供養モード」に移行した。この機能は、家族の近況や感謝の気持ちをAIが代わりに伝えてくれるというものだった。誠一はスマートフォンで家族写真を撮り、それをAIに送信すると、スクリーンに写真が映し出され、「吉村家一同から、ご先祖様へ感謝の気持ちを伝えます」とAIが厳かに告げた。





お盆が終わりに近づくと、誠一は再びAI供養マスター3000を起動させ、「送り火モード」を開始した。スクリーンに映し出された炎が、迎え火よりも少し力強く燃え上がり、「これで、ご先祖様をお送りするんだ」と誠一が家族に告げた。AI供養マスター3000は「ご先祖様が無事にお帰りになりますように」と厳かに語りかけ、家族はその光景を見守りながら送り火の儀式を終えた。

送り火が終わると、AI供養マスター3000は「ご先祖様の歴史を振り返るモード」を展開した。これまでの吉村家の歴史を、映像や音楽と共にスクリーンで紹介するという機能だ。江戸時代から現代までの家族の歴史が次々と表示され、誠一は「すごいな、これで子供たちにも家族の歴史がちゃんと伝わる」と感動した。

この供養は、従来の形式を守りつつも、忙しい現代のライフスタイルに合致していた。そして、AI供養マスター3000のサポートのおかげで、吉村家の伝統は新たな形で未来へと受け継がれていくことになった。誠一は満足そうに家族を見渡しながら、「来年もこのシステムを使おう」と心に決めたのであった。



#短編小説 #掌編小説 #お盆休み

いいなと思ったら応援しよう!