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【掌編小説】次元を超えたウイルス対策

佐藤さんは、最新のウイルス対策ソフト「超次元セキュリティマスターZ」をインストールした。なんでも「次元を超えてパソコンを守る!」という触れ込みで、レビューには「もうウイルスとはおさらば!」「安心して夜も眠れるようになりました」「もう手放せない!頼りになる相棒です」「かわいい彼女ができました」といった絶賛コメントが並んでいた。


インストール後、パソコンが突然喋り始めた。「こんにちは!私は超次元セキュリティマスターZです。ウイルスの脅威からあなたのパソコンを守るため、最適な次元にシフトします!」
佐藤さんは「おお、頼もしい」と思っていたが、次の瞬間ソフトがこう言った。

「まずは、新鮮な外気を吸わせてください。」

「え?外気?」と画面を見つめる佐藤さん。ソフトは続ける。

「パソコンも空気が必要です。外の空気はウイルスを撃退する力があります。さあ、今すぐ窓を開けて外に出しましょう!」

「なんでだよ!」と佐藤さんは叫んだが、画面にはカウントダウンが始まっている。「10秒以内に空気を吸わせないと、ウイルス感染率が50%上昇します!」

「マジで言ってんのかよ……」と呆れつつもパソコンを抱え、ベランダに出る佐藤さん。するとソフトが陽気に「素晴らしい!ウイルスの危険性が25%減少しました!」と大喜びの様子。

「これで減るんかい…」とぼやきつつパソコンを戻すが、それで終わりではなかった。

翌日、「重要なアラート!」と表示され、ソフトがまたもや喋り出す。「本日は快晴!パソコンに太陽光を浴びさせることで、次元を超えたセキュリティ性能が強化されます!」との通知があった。

「太陽光!?いや、どんなセキュリティだよ!」と叫びつつも、ソフトは容赦なし。「放置するとウイルスの侵入確率が急上昇します」
と言って、カウントダウンが始まる。結局佐藤さんはパソコンを抱えて公園へ。しばらくベンチに座りパソコンを日光浴させると、ソフトは大喜びだった。

「よくやりました!ウイルスの侵入率が20%以下になりました!」

「ホントだろうな…」と信じがたい佐藤さんだったが、さらに次の日、新たな通知が届いた。



「緊急事態!今夜は満月です。パソコンに月光を浴びさせることで、最強のセキュリティバリアを展開できます!」

「もう意味が分からん!」と佐藤さんはついに叫ぶが、ソフトは続ける。「もし満月を見逃すと、ウイルスが次元の隙間から忍び込む可能性があります!」

「次元の隙間!?パソコンが妖怪にでも狙われてんのかよ!」と絶叫しつつもカウントダウンが始まる。渋々夜中にパソコンを抱えてベランダへ。満月を見上げるパソコンと、それを見守る佐藤さん。

「おめでとうございます。最強のセキュリティバリアが展開されました!」




翌朝、新しい通知が届いた。「次は海辺でのリフレッシュを推奨します。海風に当たることで、パソコンのセキュリティ機能が飛躍的に向上します!」

「海風!?いやいや、どんだけパソコンを自然に触れさせたいんだよ!」と佐藤さんは叫んだが、ソフトは「次元を超えた浄化には海風が最適です」と譲らない。どうやらウイルスは、ただの対策ソフトでは防げないらしい。

半ばヤケになった佐藤さんは、週末にパソコンを抱えて海へ向かった。波打ち際に座り、パソコンに風を当て続けていると、ソフトは誇らしげに通知を出した。「海風効果でウイルスリスクが10%減少しました!」

「もう勘弁して……」
これ以上通知が来ないことを佐藤さんは切に願った。













翌日、画面には「重要なアラート」と表示され「次のステップとして、温泉でのリフレッシュを強く推奨します。温泉にパソコンを入れることで、次元を超えた究極のセキュリティ機能が形成されます」

「温泉!?いや、絶対壊れるだろ!」と佐藤さんは反論したが、ソフトは自信満々にこう答える。

「壊れるわけありません!私が保証します。これは次元を超えたテクノロジーです!」

半信半疑だったが、「これで究極のセキュリティ機能が手に入るなら」と佐藤さんは翌週、温泉にパソコンを持ち込んだ。

周囲の人々の好奇の眼差しを気にしながらも「これできっと最後だ」と信じ、パソコンを湯に近づけ、そっと落とした。








すると、パソコンは「ボコボコボコ……」と泡を立て、画面は瞬く間に真っ暗になった。







「壊れた……」




湯の中で沈黙したパソコンを見つめながら、佐藤さんは呆然と立ち尽くした。ウイルスの感染リスクはもはやゼロどころか、パソコン自体が完全にアウトになっていた。

「結局お湯でやられたじゃねぇか……」

佐藤さんは深いため息をつきながら、濡れたパソコンを手に取った。次元を超えたテクノロジーは、お湯には無力だったらしい。



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