たまに聞くけどさ、そもそもセルヴィッチデニムって何?
わたくし、服を作っているのに流行りに疎い。
そんな致命的な弱点を持っているのですが、それではいけないと今更ながらに思っていて、ここ最近は流行りを勉強しようと街に繰り出しています。
先日立ち寄ったセレクトショップでジーンズを見ていると、フレームの細い丸眼鏡が良く似合うショートカットの女性店員さんが八月の太陽みたいな笑顔で
「そのデニム、セルヴィッチなんですよ!」
と話かけてきてくれた。
「セルヴィッチって何ですか?」
八月の太陽に焦がされた僕は、職業上もちろんそんな事は知っているが、知らないフリをして聞いてみた。
「良いデニムのことですよ!」
「セルヴィッチだと、どういいんですか?」
「生地がいいんです!良かったら穿いてみて下さい!」
何もかも的外れな答えが返ってきた。
これがむさ苦しい男性店員ならこちらからデニムのデの字から叩き込んでやりたいところだが、笑顔という凶器の前では彼女の言いなりだ。大人しく試着をした。
そこからは終始彼女のペースだった。
服の話はほんの僅かで気付けば世間話や趣味なんかを聞き出され、服ではなくスパイファミリーやパリピ孔明が面白いとオススメされた。あれよあれよとレジまで案内されかけたが特に気に入ったジーンズではなかったので、「検討します」と店を出た。
女は愛嬌と言うが、接客も愛嬌だな。
セルヴィッチを知らなくても愛嬌があれば2万円を超えるジーンズを売れるんだから。
そんなことを考えながら車に乗り込み、片側三車線の道を西に下っている時にふと思った。
「おれに愛嬌なんてないから2万円のジーンズ売れねぇじゃん。知識で補うしかねぇじゃん。セルヴィッチについて説明しなくちゃ!!!」
今回も前置きが長くなってしまいました。
セルヴィッチ。みなさんご存知でしょうか。
そんなの知ってるよって方はおさらいがてら流し見していって下さい。
みなさんのお持ちのジーンズ。
裾を捲くって外側を見てもらうと色が違う部分はありますか?
ある人はおめでとうございます。それはきっと良いデニムを使ったジーンズです。
ない人はそうですね、daidye(d)で良いジーンズを購入しては如何でしょう。
5mm巾くらいの白い部分、これがセルヴィッチです。
旧式力織機(シャトル織機とも言います)で織られた生地にはこのセルヴィッチと呼ばれる部分があります。
耳とも言われます。赤耳と言えば聞いたことがある人もいるかと思いますが、赤耳=セルヴィッチという訳ではありません。
赤耳はLevi’sがセルヴィッチにブランドカラーである赤色の糸を通したことで赤耳と呼ばれています。
黒がブランドカラーの場合は黒の糸を通して黒耳と呼んだりして、旧式力織機でデニムを作る各ブランドがそれぞれのカラーの耳を作ったりもします。
それでもどのブランドもLevi’sに倣って赤耳を使用するケース殆どです。
上の写真はピンクの糸を使っていますね。
こちらは旧式力織機ではなく、最新の革新織機で織られたジーンズです。セルヴィッチは無く、ロックミシンで処理された後が出ます。
では何故セルヴィッチデニムは良しとされているのでしょう。
それは旧式力織機で織るデニムにしか出せない表情があるからです。
デニムに限らずほぼ全ての生地は、経糸を上下に張り、そこに緯糸を通す作業を繰り返すことで出来上がります。
革新織機は経糸のテンション(張り)を強く出来るのに加えて、緯糸をエアーで飛ばすことで大量生産に向いており品質・生産スピード共に申し分ありません。
それに比べて旧式力織機は経糸のテンションをあまり強くは張れないので緯糸を通す作業が非常に難しく、熟練の職人にしか出来ない作業です。
そして緯糸はエアーではなくシャトルという部品に巻き付けて通します。
エアーに比べ生産スピードもかなり遅いです。
革新織機は旧式力織機の5倍以上の生産スピードになり、
単純計算で旧式力織機が5mのデニムを織り上げる間に革新織機は25m織り上げることが出来ます。
そして旧式力織機で織り上がったデニムの表面には凹凸があり品質も一定ではありません。
生産スピードも遅く、品質も安定しない。
一体何が良いの? と思いますよね。
これがデニムでは無い生地を織るなら全く良いところはありません。
デニムだから旧式力織機で織ることに意味があるのです。
デニムの醍醐味といえば”色落ち”にあります。
デニムの色落ちの要因には大きく3つあり、
(1)繊維への定着率の悪いインディゴで経糸を染めていること。
(2)経糸を糸の芯まで染まりきらないロープ染色という方法で染めていること。
(3)経糸が緯糸より多く表面に浮き出る綾織りという織り方で織り上げていること。
以上が色落ちの要因です。
旧式力織機と色落ちの関係性には(3)が大きな意味を持っています。
ただでさえ綾織りによってインディゴに染まった経糸が多く表面に出るデニムという生地ですが、それを旧式力織機で織ることでより表面に凸凹が生まれ、着用時に摩擦を受ける糸とそうでない糸の差が明確に出ます。
これが色落ちした際に大きな違いを生み、美しい色落ちの表情を生み出すのです。
革新織機で織り上げたデニムももちろん色落ちはしますが表面がフラットな分、色落ちの美しさの差は歴然です。
長くなりましたがこれがセルヴィッチデニムとそうでないデニムの違いになります。
そんな大した違いないんでしょ。と言われればそれまでですが、デニムを、生地を、そして服を作る人間はこの僅かな違いに魅せられて、それを追求しているのです。
ちょっと勉強感が強くなりすぎましたが
最後まで付き合ってくれてありがとうございました。
明日からジーンズをロールアップして穿いている人を見つけたら裾をよく見てみてください。
良いジーンズ穿いてんじゃん。
はいはい、房ね。
とか思えるので楽しいかもしれません。
口に出しちゃダメですよ、嫌われますから。
もちろんdaidye(d)でもセルヴィッチデニムを使用したジーンズがあります。
商品の詳細・ご購入はコチラ
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それではまた次回お会いしましょう。