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止まらない男 止まる生地


「なに、話って?」

「ごめん。急に呼び出して。」

「いいよ全然。ってか、ここどこだよ。」

「ドラッグちゃんの住んでるマンションの前。ほらあそこ、3階の端。電気ついてる部屋。」

「は?ドラッグちゃん?」

「前に言ったことあるだろ。好きな人が出来たって。その子。」

「あぁ言ってたな。で、ドラッグちゃんってなに?」

「あだ名だよ、あだ名。」

「そのくらい分かるわ。なにそのあだ名?ってこと。」

「ほら、おれの家の近所にドラッグストアあるじゃん。あそこで働いてるからドラッグちゃん。」

「みんなそう呼んでんの?」

「いいや、おれが勝手に呼んでるだけ。」

「じゃあせめてスト子ちゃんにしろよ。ドラッグちゃんってやべぇ奴みてぇじゃん。」

「ドラッグちゃんにこれから告白しに行くんだ。」

「人の話聞けよ。」

「だから背中押してくれよ。お前に背中押されたら上手くいきそうな気がするんだ。」

「まぁそれはいいけどさ。でもさ、突然部屋行って告白って。そこまで距離縮まってんの?」

「あぁ、何回も会ってる。」

「じゃあ大丈夫か…」

「レジで何回も会ってんだ。」

「…は?」

「だから、ドラッグストアのレジで何回も会ってる。」

「は? えっ、プライベートとかで会ったことは?」

「ない。だけどレジで何回も会ってるから。」

「いや、それ会ってるって言わねぇから。」

「会ってるだろ!」

「店員と客としてだろ。」

「だから会ってるだろ!」

「いや…会ってるけど、それは会ってないと同じなんだって!スト子ちゃんも」

「ドラッグちゃん!」

「…はぁ。ドラッグちゃんもお前のことなんて覚えてないって。一日何人のレジ打ってると思ってんだよ。」

「話したことも何度もある。」

「どうせポイントカードお持ちですか?とかそんなだろ。」

「クレジットで。も言ったことあるぞ。」

「一緒だよ!そんなの話した内に入んねぇよ。」

「うるせぇなぁ。お前言ってたよな。中学生が校内で何回か話したことあるだけなのに、いきなり体育館裏とかに好きな人呼び出して告白するの凄いって。だからおれもいきなり告白するんだ。」

「言ったことあるけど違うじゃん!それはその純粋さとか若さが眩しいから凄いって話。お前今いくつだよ!30だろ!」

「恋愛に年齢は関係ないだろ!」

「だから違うって!それは歳の差がある時に使うやつだよ!」

「うるせぇ!おれはもうこの気持ちを止められないんだよ!」

「いや、それだけ人を好きになれる気持ちは素晴らしいよ。だけどまだその段階なら少し世間話するとか連絡先聞くとか、まだまだ踏む手順が………え? 待って? なんでお前レジ打ってもらっただけなのにスト子ちゃんの部屋知ってんだよ…」

「ドラッグちゃん!」

「どっちでもいいわ!…まさかお前…」

「ちっ、違うよ!つけてないよ!連絡先渡そうと思ってドラッグちゃんが仕事終わるの待ってたら、緊張して渡すタイミング失って気づいたらマンションの前まで来てただけだって!ストーカーじゃないって!」

「一緒だよ!」

「違うよ!とりあえずおれは告白するんだ!もう何をしててもドラッグちゃんのことを考えちゃうんだよ!ドラッグちゃん今なにしてるのかなぁとか、なに食べてるのかなぁとか、なに見てるのかなぁとか、ドラッグちゃん!ドラッグちゃん!」

「怖ぇよ!歪んだ愛になってねぇか。」

「純愛だよ!」

「ならばこちらは大義だ。って馬鹿! とにかくだ、今この状態で告白しにいくなんて、それこそ丸腰で乙骨と戦うくらい無謀だ。相手の立場になってみろよ。いきなり見知らぬ男が部屋に来て告白してくるんだぜ?」

「確かにそれは怖いな。」

「だろ?お前は今それをしようとしてるの。」

「え?おれは見知らぬ男じゃないでしょ。何回も会ったことあるし。」

「だからそれは会った内に入んねぇって!」

「わっっっかんないよ!お前の話はいつもわっっっかんないよ!」

「だからな、分かりやすくいうとな…あっ、これ。おれの今穿いてるカーゴパンツあるだろ。このカーゴパンツの生地はリップストップっていう生地で破れにくいんだよ。」

「服の話なんて今どうでもいいよ!」


リップストップ生地のカーゴパンツ


「最後まで聞けよ。普通の生地はさ、少し破れたらそこからどんどん破れが広がっていって取り返しのつかないことになるだろ? だけどリップストップはな、生地が格子状になっているから少し破れても格子のところで止まるんだよ。今のお前はただの生地だよ。だからこのままいったら破れ切ってもう取り返しがつかないぞ。だからお前はリップストップみたいに今は一回ストップして、ちゃんとした手順を踏んで告白しようぜ。って話。」

「なるほど。」

「なんでこれは分かるんだよ。」

「じゃあお前の穿いてるそのリップストップ? のパンツ貸してくれ。」

「は?」

「それ穿いて告白したら上手くいくんだろ?」

「そういう意味じゃねぇって!」

「いいから貸してくれ!ほらっ!」

「おっ、おいっ!やめろっ…脱がすなって!」

「よし、これ穿いて告白して来る!」

「おいっ!せめてお前の穿いてたジーパンでいいから貸せって…」

「行ってくる! うおおおおっ!ドラッグちゃぁぁん!」

「ちょ、待てよっ! …あぁ、行っちゃったよ。絶対フラれるよ、あいつ。しかし大丈夫か、一歩間違えたらストーカーだぞ。通報とかされなきゃいいけど…」


ウーーーーーーウーーーーー
ウーーーーーーウーーーーー


「え、パトカー? マジかよ、あいつスト子ちゃんに通報されたんだ!」

「そこの君! 何をしているんだ!」

「え?」

「このマンションに住んでいる女性から、マンションの前からズボンを穿いていない男が部屋を見てくるという通報があった!」

「…え? あ…いやいやっ、これはあの…おれの友達がスト子ちゃんに、あっ、ドラッグちゃんに告白するから呼び出されて、あっ、ドラッグちゃんって言うのはあだ名で。ドラッグストアで働いてるからドラッグちゃ」

「パンツ丸出しで何をわけのわからないことを言っているんだ! ドラッグ? まさかお前…署まで連行する!乗れ!」

「はぁ?なんで?なんでおれがこうなってるのか
わっっっっっっかんないよっっ!!!!」

「よし、署まで行くぞ。」

「ストップストップ! お巡りさん、一回ストップ! 誤解だから! 一回パトカー止めよう! 止まることって大事だから! ほらっ、おれが穿いてるこのカーゴパ…あっ、穿いてねぇや。」

「ずっとお前は何を言っているんだ! やはりドラッグを…」

「ストッップーーーー!!!」









「そうだよな。あいつの言ってた通りだ。このカーゴパンツの生地みたいに止まることは大事だよな。このままこのインターホンを押して告白してもフラれるだけだ。一回止まって、冷静になって考えよう。ちゃんと手順を踏んで、仲良くなってから、その時に告白しよう。…やっぱり持つべきものは友達とリップストップのカーゴパンツだな!」







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