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心不全パンデミックに備えよ!

心不全」とは、心臓のはたらきが悪くなり、心臓から血液を全身に十分に送り出せない病態を指します。高齢化とともに患者数が急速に増加していますが、これは世界的な傾向でもあり、医療機能のひっ迫を促すのではないかという懸念から、感染症の爆発的流行を意味する「パンデミック」と呼ばれています(心不全は感染しません)。
この心不全とはどんなものか、冬になるとそのリスクは上がると言われています。治療、ケア、予防などについて、大同病院の慢性心不全認定看護師である田中遼太さんに聞きました。(2024年1月17日配信)

心臓が疲れてギブアップした状態が「心不全」

イズミン 「心不全」というのは、どういう状態のことを指すのですか?

タナカ 心臓が悪くなったことが原因で、息切れや浮腫などを起こし、だんだん悪くなって、命を縮める病態です。心臓が疲れてしまって、ギブアップしている状態だとイメージしてもらえればいいと思います。特に冬場には風邪と勘違いして、病院受診し、実は「心不全です」と入院される方もいます。

イズミン 死ぬときは皆「心不全」なのかと思っていましたが、そうではないのですね。

タナカ もちろん最終的に亡くなるときには心臓が止まるわけですけれども、その止まった原因が心臓かどうかはまた別の話ですので、イコール心不全ではありません。ただ心不全は「心臓病の終末像」と言われており、心臓の病気を持った人は最終的には心不全になるといえます。
 高齢化が進んで、心不全の患者さんが年々増加しており、「パンデミック」になるのではないかと予測されています。

イズミン 「パンデミック」といいますと、感染症の大爆発、爆発的に流行るという意味だと思うのですが、心不全は別に感染するわけじゃないですよね。

タナカ 「パンデミック」という言葉はコロナ禍でよく聞いたと思いますが、もともとは、感染症発症者が急激に増加して医療機関が逼迫するようなときに使用されています。
 心不全は感染症ではないので、人にうつるっていうことはありませんが、高齢化が進むにつれてその患者さんが急速に増えおり、2020年には120万人だった国内の患者数が2030年には130万人になると言われています。年間だいたい1万人ずつ増えていく計算ですね。そしてその頃になると、がんよりも心不全の患者さんが多くなると予想されています。
 また日本だけではなく、世界的にも心不全の患者さんが増加しており、特に問題視されている理由としては、患者数ががんの3.5倍ぐらいいると推定されていること、40歳以上の5人に1人が心不全を発症すると言われていること、あとは死亡率が高くて心不全の患者さんの50%が5年以内に死亡してしまうと言われていることなどが挙げられます。
 心不全は急激に悪くなると入院が必要になる病気で、また一度発症すると治らないために、何度も入院を繰り返すことになります。そのため心不全の患者数は累積し、現状でも65歳以上の入院の中の原因では一番多いと言われています。

イズミン 心不全にかかる人が多くなると、医療が逼迫するとおっしゃいましたが、どんな問題が生じてくるのでしょうか?

タナカ 入院治療が必要な患者さんが増えることで病床を圧迫し、新型ロナのときのように、治療が必要な患者さんが入院できなくなってしまうのではないかと危惧されています。入院治療後の転院先がないという問題も、発生してくるでしょう。

心不全の治療は薬物療法が主体

イズミン 心不全の治療はどういう形になるのですか。特に高度急性期病院である当院の場合について教えてください。

タナカ 急性期の心不全の患者さんの場合は、主に薬物療法がメインになります。主に点滴ですね。薬物療法だけでは循環動態が保てないような患者さんは集中治療室(ICU)で人工呼吸器や補助循環装置を使ったり、自分の心臓で循環血液をうまく回せない場合には、機械を繋げてサポートしてあげたりする場合もあります。
 急性期を脱した患者さんは、点滴から内服薬に移行して、療養生活を送ってもらうのが一般的な治療法になります。

イズミン  心不全の原因を調べる検査もいろいろ行っていますね。

タナカ はい。「心不全」というのは、何かしら心臓の機能に異常があって起こっていることなので、循環器内科の先生たちは、その心不全の原因が何か調べて、そこに治療的介入が可能なのか、今後手術ができる可能性があるのかなどを調べて、治療方針を決定していきます。

心不全の再発率は50%、だが予防は可能!

イズミン ところで田中さんは慢性心不全認定看護師という資格をお持ちですけれども、これはどのような役割を持ってどんな活動をしているのですか。

タナカ ここまでで、「心不全は怖い病気」というイメージが強くなってしまったかもしれませんね。確かに重症化しやすい病気ではありますが、反面、規則正しい生活を送ることで、再入院率・再発率は約50%低下する、つまり半減すると言われています。
 心不全という病態があまり認知されていないことも、心不全増加の要因のひとつであると考えられていますので、急性期の看護介入はもちろん、再発予防に向けた患者さんへの指導や相談、支援を行い、安心して日常生活が送れるように日々尽力を注いでいます。

シノハラ それ大事ですね。病気になるのは仕方がないにしろ、病気になった後にまた悪くならないように自分の生活を考えて、ある程度自分で自分の生活をコントロールしていく。でもなかなか人間ってそれできないから、教えてもらったり、励ましてもらったり、手伝ってくれる人が必要です。そういうことを田中さんたちが頑張ってやってくださるのですね。
 自分自身もそうですけど、長年同じような生活を送っていて、10年20年と繰り返してきた生活を急に変えるのは難しい!

タナカ 僕たちは、それを変えられるようにサポートします。患者さんへのアプローチにもいろいろと専門的な方法があるので、それらを駆使しながら、患者さんの生活のリズムをできるだけ変えないように、心不全とうまくつきあえるように努力します。これはかなり難しいことなのですが、そこまでやらないとなかなか生活習慣というものは変わらないですからね。

シノハラ 運動した方が健康にいいとわかっていても、簡単にできないですもんね、笑。

イズミン 病気になっても生活習慣、タバコとかいろいろ止められない、悪いとわかっていてもということもしばしばありますね。
 でも、先ほど心不全を発症したひとの50%が5年以内に死亡という話があり、今、再入院率を50%低下させられるというお話がありました。つまり心不全を一度起こしてから、その生活習慣を変えるか変えないかで半分の人は近いうちに亡くなるが、残り半分の人は何とか持ちこたえると、そんなイメージなのでしょうか。

タナカ 若くて心不全になる患者さんと、高齢になって心不全になる場合とではもちろん余命がだいぶ変わってきますが、生活習慣を変えることで、確実に寿命が延びると言われています。何年延びるかは、心臓の状態や、他の病気(併存疾患)との関係、つまりどの併存疾患がどのくらい心臓や身体に負担をかけているかなどによって変わってくるので、一概に全ての患者さんが長生きできるとはいえませんが。

心不全になったら人生会議

イズミン 昨年11月に「人生会議」というテーマで放送したんですけども、そのときに「心不全になったら人生会議を始めた方がいい」というお話がありました。タナカさんも、実は大同病院の地域向けの人生会議の啓発活動で活躍してくださっています。
 心不全の終末期についてもう少し詳しく教えていただけますか。

タナカ 心不全は急激に悪くなりますが、治療がうまくいくと、元々の状態近くまで回復し、日常生活に戻れる方が多いです。それで「完治した」と思って帰られる患者さんも多いのですが、「完治する」ことはありません。いつかは必ず心不全を再発します。再発と寛解(良くなること)を繰り返します。
 ただ必ず寛解するとも言えなくて、急激に悪化したり、よく聞く“心臓発作”というものを起こしたりする原因になるので、突然に最期を迎えることに繋がりやすい病態でもあります。なので、心不全と診断されたときには、ご家族を含めて最期について考えておくこと、つまり「人生会議」をしておいた方がいいと、学会の方でも推奨されています。

シノハラ 心不全っていう病態について十分理解し、心不全になったその後どうなるかもある程度イメージし、ご家族の方や近しい方々とお話していただくのがいいということですね。

心不全の予防は生活習慣の改善に尽きる!

イズミン ここまで「かかったら」ということについて伺ってきましたが、できれば予防をしていきたいですよね。「心不全」の予防にはやはり、生活習慣を整えることが大事になってくるのでしょうか?

タナカ そうですね。心不全の予防で一番大事なのは、生活習慣病を予防することです。高血圧、糖尿病、脂質異常症といった病気が、心不全の原因の多くを占めています。
 特に塩分の摂り過ぎには要注意。コンビニやスーパーで売っている食品にも食塩相当量が表記されていますが、これも生活習慣病予防のために国が行っている施策の一つです。
 やはり規則正しい食事と運動が大事です。生活習慣病になってしまった、その危険があるという方は、毎日の健康管理のために、血圧測定と体重測定をすることを、僕はオススメしています。


ゲスト紹介

田中遼太(たなか・りょうた)
長崎県五島列島出身。愛知県の看護学校に進学し、大学病院の心臓外科・循環器病棟などで研鑽を積んだのちに大同病院へ。慢性心不全認定看護師。
美しい海を見て育ったがゆえに名古屋近郊の海では満足できず、釣りはあきらめて、自宅にアクアリウムを設置。飼育が難しいといわれる観賞用の小エビに挑戦し、日々癒されている。ほかにソフトテニスやeスポーツなども好き。


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