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親の介護をどうするか。働く世代にとっても悩ましい問題です。介護保険制度があり、社会的な支援を受けることはできますが、その財政は困窮し、人手不足の問題も深刻です。
「敬老の日」を前にVoicyでハッシュタグ企画として登場した「#介護を考える」というテーマに、「Dらじ」は介護のエキスパートとともに向き合ってみました。間もなく新築移転リニューアルオープンする大同老人保健施設・ケアマネジャーで介護福祉士の各務和代さんがゲストです。(2024年9月15日配信)

 

施設の介護・自宅の介護

イズミン 介護老人保健施設(老健)にはどういう状態で来られる方が多いのですか?

カガミ 高齢になっても、ご自宅で自立して暮らしている方はたくさんいらっしゃるのですが、そういう方が例えば脳こうそくや心臓病といった病気になったり、骨折などをしてしまうと身体に麻痺や障害が残ったり、また入院して動けない間に体の機能が衰えてしまったり、認知機能が低下してしまったりすることが結構あります。
 そうすると今までのように自立して過ごすことが難しくなり、介護が必要になるんですね。そういう方が病院から退院するときには、介護保険サービスを使えるようにするなど、いろいろ整えてご自宅に帰っていただくことになります。しかし、おうちの方が慣れていらっしゃらない場合や、もう少し自分でできることを増やしてからご自宅に帰った方がいいだろうという場合に、老健に3カ月程度入所していただき、リハビリをしてから帰るという選択肢があります。

イズミン なるほど、おうちの方も慣れないと戸惑ってしまいますものね。 
 つまり老健というのは、病院での治療が終わっておうちに帰ったときにスムーズに暮らせるよう、もうワンステップ加えて、生活に密着したリハビリを行って、次のステップへの移行を支援するという施設なんですね。
 具体的にはどんな機能をどのように回復して帰っていただくのですか。

カガミ 例えばおうちに帰られたとき、多少の介助が必要な方であっても、1人でトイレに行って用を足せるとか、自宅内なら1人で移動して過ごせるとか、それができれば、何とかご家族の負担もそれほど増やさずにご自宅で暮らせます。何がどのくらいできるようになったらいいのか、その方に合った、家に帰れる方法を探していくのも私たちの仕事なのです。

シノハラ 老人保健施設でリハビリを頑張ったけど、自宅に帰るのはちょっと難しいかなっていう方もいらっしゃると思いますが、そういう場合はどうするのですか?

カガミ 同居するご家族や、近くにサポートできる方がいらっしゃるかといった条件にもよりますし、また介護する方の時間的な制約や介護能力も千差万別ですので、必要に応じて施設に入所するという選択もあり、わたしたちがその方に合った施設探しのお手伝いをします。

イズミン どんな施設が行き先の候補になるのでしょうか?

カガミ 認知症のある方ならグループホームや、特別養護老人ホーム(特養)有料の老人ホームなど。医療依存度の高い方なら介護医療院という選択肢もあります。

イズミン 施設の選び方の条件はみなさんどんな感じなのでしょうか。

カガミ やはりご家族のお住まいから地理的に近いこと、あとシビアな問題として金銭的な問題が大きいです。条件に合うところでいくつか実際に見ていただいて、できるだけ合うところを探していくという感じですね。

シノハラ ご家族が多少無理してでも自宅で看たい、またはご本人が自宅にどうしても帰りたいっていう場合はどうなりますか?

カガミ 老健に入所中はわたしたちがケアマネジャーの役割を担当しますが、ご自宅に帰ると居宅介護専門の方にスイッチされます。元々ケアマネさんがついている場合にはその方に再び引継ぎ、いらっしゃらない場合は新たにケアマネさんを探して、その方とよく相談しながら、ご自宅での介護指導などを行います。老健のリハビリスタッフがご自宅に伺って、ご自宅の環境に合ったリハビリを行うこともできます(訪問リハビリ)。

施設か、自宅か、正解はない

イズミン 介護というと、日本では自宅で家族が面倒を見るのが正しいという概念はまだまだあり、これは「家事は主婦がするのが当然」みたいな考え方と似ていて、それがいろいろなひずみを生み出しているのではと思うことも結構あります。要介護の方を抱えるご家族が、例えば施設入所を選択した場合にどことなく後ろめたさを感じてしまうことも少なくないですよね。

カガミ そうですね、介護を必要とするご本人もご家族に迷惑をかけたくないと思う。でも施設の生活は合わない、などいろいろな思いが混じり合って大変なんですよね。介護ってどうしても終わりが見えないところがあるので、無理をせず抱え込まず、何か心配ごとがあるときや、疲れてしまったときには、私たちのようなプロにご相談していただければと思います。

シノハラ いろいろな選択肢があっていい。自宅で看たいと思って自宅で看る方もいらっしゃるけれども、自宅で看るのは正しく施設に預けるのは駄目だみたいな雰囲気も、依然としてありますね。施設が悪いわけではないと思うんですよね。フレキシブルにそのご家族にとっての最適解が見つかればいいですよね。

カガミ 施設を選択してもちょっと後ろめたさが残っているようなご家族には、有料老人ホームなどでは、外泊や外出ができるところもあるので、たまにおうちに帰ってきてもらって一緒に過ごしたり、一緒に外出したりということもできますよ、と提案します。施設に大変な部分をお任せして、一緒にいる時間は笑顔で過ごせるようにするという選択もあるんですね。

シノハラ やはりプロに相談して、自分たちにとって「最高」ではないかもしれないけれど、現状で一番良いかな、という「最適解」を探っていくのがいいですね。

カガミ そうですね。お互いに無理してしまうと、どこかでひずみが出てしまいますので。

イズミン コロナ禍のころには、施設に入ってしまうともう全然会えないといったことも結構あって、ご本人もご家族も苦しい時代があったと思いますが、今はそのあたりいかがでしょうか。

カガミ 今は、多少時間的な制約などもありますが、だいぶ以前のように会えるようになってきました。

イズミン 大同老健はこの秋リニューアルして、新しい施設がオープンしますが、ほぼ全室個室となり、入所者さんとご家族がかなり自由に会えるようになりますね。

カガミ はい。今までは面会の方が入所者フロアの方に上がってこられなかったのですけれども、新しい施設ではご家族にもフロアの方に上がってきていただいて、面会条件がかなり緩和されます。

イズミン ところで、ご自宅で介護されている場合、オムツの使い方や変え方もよくわからないということもあると思うのですが、そういうときは誰に相談すればいいのですか?

カガミ だいたい中学校区域ごとに設置されている高齢者を支える総合相談窓口があります。「地域包括支援センター」、名古屋市だと「いきいき支援センター」といいますが、そういうところや、地域の介護予防教室や電話相談窓口などにも相談できるはずです。またケアマネジャーさんやヘルパーさんを利用していらっしゃれば、その方に聞いていただくのが良いと思います。

シノハラ 自分ひとりで抱え込まず、いろんな方の協力を得てやってくのがいいですね。

イズミン 介護保険サービスも高齢人口の増加で人手が足りなかったり、財政的に厳しくなっていたり、介護認定そのものも受けにくくなってきていて、難しいことはたくさんあるのですけれども、明けない夜はないですから、とにかく無理をせず、ポジティブでいられるように頼れるものはみんな頼って、助け合って過ごしていけたらいいと思います。
 各務さん、ありがとうございました。


ゲスト紹介

各務和代(かがみ・かずよ)
大同老人保健施設 ケアマネジャー。全くの未経験から介護職員として入職、4年目に介護福祉士を、5年目にケアマネジャーの資格を取ったたたき上げ。いまは相談員として老健退所後の暮らしへの移行をサポートするかたわら、入所者さんの介護にも実際に携わり、月3回ほどは夜勤もする。趣味はホットヨガで、週3回ハードなトレーニングを積んでいるので体力には自信がある。また好きなアーティストの推し活も、リフレッシュに大きな役割を果たしている。


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