[短編小説] “貸していたマフラー着けておもいだす良い思い出と君の微笑み”
「今まで、ありがとう。はい、これね。」
重い荷物はあらかた宅急便で送ってもらった。
最後の別れの挨拶だけしに来たつもりだったが、餞別としてなのか、あげるつもりで貸していた青いマフラーを手渡された。
「こちらこそ、ありがとう。どうか、幸せに。」
いつも、後ろ向きに手を振りながら進んでいた駅までの道を一切振り返らずに帰る。
角を曲がってもう彼女の家が見えなくなったところでマフラーをつけた。
心臓の少し下。お腹の上あたりから、
別れが込み上げてくるのを感じた。