見出し画像

私は天皇杯決勝に行かないことにした

2021年元旦。4年ぶりの天皇杯決勝。初めての新国立。日本サッカー協会の先行発売で手にしたプラチナチケット。川崎フロンターレのサポーターとして、一人のサッカーファンとして、私はその日を楽しみにしていました。

2020年12月27日。J3王者、秋田との準決勝を制し、フロンターレは決勝に進出しました。相手は私が故郷の大阪に帰ったら応援しようと決めているガンバ大阪。大好きなフロンターレと、二番目に好きなガンバ大阪の決勝、行きたくないわけがない。でも私は、その日、27日日曜日に、チケットの払い戻し手続きをしました。

理由は一つ。医療従事者の皆さんが休みを返上して頑張っているこの年末に、外出を減らす一人になりたかったからです。もし、私自身がコロナウィルスに感染していなくても、またスタジアムで感染するリスクが低くても、元旦は極寒になる予報の屋外で観戦すれば、体調を壊し病院の世話になる可能性はあります。また一般発売が中止になった後でも1万人超の人出が見込まれる場所にこの状況で出向いていくことは、本当に良心がとがめる。昼夜を問わず、自らの健康をリスクにさらしながら、患者さんの診察や治療に当たられている医療従事者、特に看護師さんの姿が脳裏に浮かんで、自制心を120%にアップして払い戻しを選択しました。

そんな時、ツイッター上では「天皇杯決勝チケットを譲ってください」というツイートを頻繁に目にしました。すごいなと思ったのは「定価の倍で買います」というもの。また売り手に関しては「正規のルートでないため、それ相応のお値段です」というもの。コロナ患者の急増に伴い、一般発売が中止されたことで、ただでさえ貴重なチケットの希少性がより高まったためでしょう。また、ある人は「行くの止めようかな」とつぶやいたら「譲ってください」という知らない人からのリプライが一斉に来たとか。聞いたところ、定価の9倍、10倍という売り値をつける人もいたそうです。

言わずもがなのことですが、スポーツ等のチケット転売は正規ルートを通さない限り違法です。規制の目的は下記のサイトにあるように「高額転売による弊害の防止」ですが、定価での転売についても、現在の状況を考えれば社会的に望ましい行為とは言えません。理由は2つあります。

①正規ルートでの買い戻しが試合日直前の12月31日までできるため、「急に行けなくなったので」「余ったので」転売する必要はありません。

②日本サッカー協会は、コロナ患者の増加という環境の変化を受けたイベント人数制限を受けて買い戻し期間を31日まで延長した経緯があります。狙いは販売済のチケットを回収し観客の総人数を減らすことにあると言えるでしょう。しかし転売をされると観客の人数は減らず、新国立競技場には1万人程度以上の観客が集まることになります。スタジアムの観客は収容人数の5分の1ですが、駅や交通機関はそれなりに混むでしょう。

私は転売を求めるサポーター、また転売でチケットを確保して喜んでいるサポーターのツイートを見て、その「民度の低さ」にがっかりしました。ツイッターでの発言は、渋谷のスクランブル交差点で叫んでいるのと同じだと言われます。待ち望んだ決勝に行きたい!行ける!という興奮はわかりますが、年末年始の人出をいかに減らすか、コロナ以外でも医療従事者の疲労(特に救急病院や総合病院)をいかに減らすかがすでに日本全体の社会問題になっている時によくこんなことをつぶやけるな、と思いました。

もちろんサッカーファンの中にもいろいろな方がいます。違法なチケット転売を普段は批判しているくせに、自分が行きたいとなったらなりふり構わず叫び、転売で手に入れたら大喜びするような矛盾だらけの人ばかりではなく、当日はTVで応援する、という私のような人も多いでしょうし、正規のルートで入手したチケットでスタジアムに出向く方もいるでしょう。

しかし、このような一部の良識のないサッカーファンのために、サッカーを楽しむ人全員が白い目で見られることは残念です。私たちが普段サッカーを含めた娯楽を楽しめるのは、広く社会を支えている人たちのおかげです。その中でいま頑張っている医療従事者の方々に敬意を示すためにも、私は天皇杯決勝に行かないことにしました。これは私の個人的な決断です。

画像1

箱根駅伝では「応援したいから応援に行かない」というキャッチフレーズで応援に出向く人に自粛を促しています。屋内でなく屋外だから、マスクをしているから、という判断の入る余地はなさそうです。コロナ禍で迎える初めての厳しい冬が、大みそかの夜から元旦にかけて訪れ、ここで何が起こるかは誰にも予測不可能です。ゼロリスクというものはあり得ませんし、ある程度リスクをとらなければ何事もなしえませんが、サッカー観戦はあくまで娯楽です。仕事ではないのです。

熱心なサポーターの間には「スタジアムに行くことがクラブ愛の証拠」のような刷り込み(新興宗教の信者みたい・・・)があり、社会全体が危機的な状況でもデフォルトモードで普段と同じ行動が容易に正当化されます。自分の属する狭い世界で孤立するよりも「皆が行くから自分も行く」という行動の方がとりやすいのでしょう。しかし、極寒の元旦に外気に当たり、混雑する駅やコンコースを歩くことは、人数に比例した社会的なコスト(負荷)を生みます。「ほかの人が川や海にゴミを捨てるから自分も」ではなく「ほかの人が捨てても自分は捨てない」と考え、行動を変える人が何人いるかで、その共同体(この場合はサポーター)の地域や社会への貢献度は決まるのではないでしょうか。

普段はクラブの「地域貢献度NO1」を自分のことのように自慢するフロンターレサポーターが、違法な転売チケットを買ってまで元旦の国立に出向く。これには、全くしらじらしいものを感じます。しかしそれは彼らの価値観の問題です。

私は「その追加的なリスク、本当にとる価値があるのか?」と自分の頭で考えました。私が国立に行かなくても、フロンターレは優勝できます。だから、家にいて、医療従事者の皆さんとフロンターレを応援します。さて、あなたは、どうしますか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?