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駒沢『BOWERY KITCHEN』絶品パスタの味に導かれた記憶

なんとなくまた行きたくなるカフェってありませんか?

私にはいくつかあって、その内の一つが駒沢公園通りにある『BOWERY KITCHEN』というお店。

通っているというほどでもないけれど『今日どこ行こうか?』って迷っている時に必ず思い出し『お!? 最近、行ってないな。そうしよう』と10年以上前から、時たま足を運んでいる。

店内はオープンキッチンでシェフの姿が見えるのもいいし、店員はみんなオシャレなうえに対応が凄くいい。なによりもメニューが充実していて、いつも何を食べようか迷ってしまうほどだ。

ここに来る理由のひとつは大型犬を連れて行っても問題ないことだ。むしろウェルカムな感じで、ワンちゃんを連れてきているお客さんも多い。そんな雰囲気を含め今でも休日のお昼時になると、店頭に数組並ぶぐらい流行っている。

公私にわたり昔からお世話になっているご家族がいる。そのお宅はゴールデンレトリバーを飼われていた。実際は盲導犬協会の繁殖犬だったので、預かっておられたと言った方が正しいのかもしれない。

盲導犬の血を継いでいるからか、とにかく賢くて、穏やかな性格。私にも懐いていたので、お散歩へ出かける日に連絡があると一緒について行き、よくこの店を訪れた。

席に付くと必ずワンちゃん用の水を持ってきてくれて、それをジャブジャブと飲むので、周りは水浸しになる。けれど怒られるどころか「オカワリいる?」と犬目線で話しかけてくれるのがこのお店の良いところだ。

この店でよく食べたのが『キャベツとソーセージのペペロンチーノ』。ガーリックの香りが食欲をそそり、キャベツの食感がたまらない。シンプルながら絶妙に計算されたあの味は、口の中の記憶から一生なくならないだろう。

お腹一杯になったら多摩川の河川敷へ向かうのがルーティンだった。ゴルフ練習場の側にクルマを停めて、川沿いのネット横を歩く。200メートルぐらい行くと、人がほとんど居ないだだっ広い場所があった。本当はいけなかったのかもしれないが、リードを外してあげて、大好きなボール遊びをやるのが楽しかった。

ボールを投げると一目散に追いかけキャッチ。嬉しそうに戻ってくる。何度も何度も繰り返し、投げるのが疲れてしまうぐらい一緒に遊んだ。

ある日の夜。携帯が鳴った。ゴールデンレトリバーの飼い主さんからだった。9時を過ぎてから連絡があるのは珍しいので、なんだか嫌な予感がした。

泣きながら喋っているのか、状況が掴めない。

「なんだか分からないですけど、今すぐ行きます!!」

ただ事ではない雰囲気だったので3分で仕度を済ませて、自転車に跨る。11月に入ったばかりだったけど、暖かい風と共に猛スピードで坂道を下った。

飼い主さんのご自宅に着くと、泣いている奥様と娘さんの前に横たわる愛犬の姿があった。一瞬で状況を把握したものの整理が付かない。

「まだ、息あるんですよね?これから獣医さんがくるんですか?」

首を振る二人。冷静さを取り戻せないようだったが、たどたどしく話してくれた。どうやら自宅前の遊歩道でボール遊びをしていた時、投げたボールが何かに当たり車道へ飛び出してしまったそうだ。そこへバイクが通りかかり…。

お別れを告げた帰り道。堪えていた涙が一気に溢れた。登り坂を『なんでだよ、なんでだよ…』と必死に漕ぎながら、つい先日まで遊んでいた時の姿が思い浮かぶ。

それからというもの、何をするのもやる気が湧かず、原稿を書くのも面倒臭くなっていた。半年ぐらい経った頃だろうか。随分『BOWERY KITCHEN』へ行っていないことに気が付く。意識はしていなかったけど、なんとなく足が遠のいてしまっていたのだ。

でも、その日は何かに引っ張られているように、なんの躊躇もなくお店へ導かれた。

そして、いつものパスタを注文する。

いつもの味。

いつもの空間。

いつもの自分。

『前へ進もう』ふっと、そう思った。

店を出て河川敷へ向かう。クルマの中に残っていたワンちゃん用のボールを取り出し、あの場所にたどり着く。『一緒に遊んだ思い出はおれの記憶からなくならないよ』そう誓いながら力の限り遠くまでボールを投げた。

あの時のようにボールは戻ってこなかったけど、少しだけ気分が晴れた気がした。

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だいちゅう
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