紫色から始まるⅡ⑨
ジン「昨日は本当にありがとう。そしてごめんなさい」
昼休みにジン君が私達のクラスまで謝りに来た。
昨日のテテちゃんのお誕生日会の事だ。
ジミン「え、大丈夫だよ。楽しかったじゃん」
ナム子「途中からだんだんテンション高くなってきちゃったし」
ジミン「あんな恰好、なかなか出来ないしさ」
心底済まなそうな顔をしているジン君を見て、ジミンとナム子が労るように話す。
昨日それぞれ着替えさせられて、結局最後までその恰好のまま過ごしたのだ。
ユンジ「テテちゃんが嬉しそうに笑ってくれてたから良いよ。もう謝らないで」
ジン「うん……もうああいう事させないから、また遊びに来てくれる?」
ユンジ「うん、是非」
ジン「良かった。テテとまた遊んであげて欲しいんだけど……」
ユンジ「喜んで」
やっとホッとしたようで、ジン君にいつもの笑顔が戻った。
ナム子「私もまたお邪魔したいな。おかあ……保美江さんの書斎の本、お借りしたいの」
ジミン「保美江さんの本?」
ナム子「そう、天井まで本棚があってね、とっても素敵なの。保美江さんがお留守の時でも貸してくれるって」
ジミン「じゃあその時は俺も一緒に行く」
ジン「来て来て! 僕がいる時ならお袋の部屋にも入ってもらって大丈夫だから」
ジミン「保美江さんって呼ばなくて良いの?」
ジン「外ではね」
ユンジ「ふーん……ねぇ、何でお母さんを保美江さんって呼ぶの?」
ジン「んー分かんない。これからはそう呼びなさい、って急に言われたんだよね」
ユンジ・ナム子・ジミン「ふーん」
ナム子「私さ、保美江さんと会ったの初めてじゃない気がするんだけど」
ユンジ「あっ、私も」
ジミン「俺も」
ジン「あー、有名ではあると思う」
ジミン「えっ、そうなの?!」
ナム子「うわ、ちょっと待って言わないで! 思い出したい」
ジミン「俺も! えーっと、うーん……?」
誰だろう?
昨日の印象が強烈すぎて……。
散々考えても正解が出ず、答え合わせは放課後になった。
ジミン「えっ! 保美江さんってファッションデザイナーだったの?!」
周りの人が一斉に振り向いた。
いつものマック。
ナム子「私あのブランド憧れてて! 大人になったら着たいなって思ってたの」
ユンジ「素敵な服多いよね」
ナム子「あの服を保美江さんがデザインしてるの? うわぁ感動!」
ジミン「ナム子これ似合いそうだね」
スマホで検索していたジミンが、嬉しそうにナム子に画面を見せている。
保美江さんのブランド『hobby』は《エレガントと機能性の共存》をコンセプトに展開されていて、どんなシーンにも映える女性らしいデザインが働く女性から支持を受け、海外進出もしている人気ブランドなのだ。
意識してなかったけど、雑誌やネットで保美江さんを見た事があったのかもしれない。
ユンジ「アトリエが海外なの?」
ジン「うん。だから月一回くらいしか帰ってこれなくて」
ユンジ「そうなんだ」
ふっとナム子達の方を見ると、ナム子とジミンが頭を寄せ興味津々の目で、こちらを見ている。
え?
ジミン「あのさ、二人ってさ、いつから付き合ってるの?」
ナム子「私も気付かなかったし、噂も聞かないし」
ナム子・ジミン「いつから付き合ってるの?!」
ユンジ「……あんた達幼なじみだからって息合い過ぎじゃない?」
ジミンがふにゃあと嬉しそうに笑う。
ジミン「そうかなぁ」
ナム子「ジミン! 話逸らされるわよ。ユンジが息継ぎ無しで一気に話す時は、話したくない時なんだからね」
バレたか、さすが親友。
ナム子「で、いつから?」
どうしよう、考えてなかった。
ジン君と目が合う。
探るように私を見ていたジン君が口を開いた。
ジン「ヤー、実は二人が付き合い始めるちょっと前なんだ」
ジミン「じゃあ俺らと変わらないんだ」
ジン「そう」
ナム子「どっちから付き合おうって言ったの?」
ジン「僕から……ヤー恥ずかしいからもう聞かないで」
顔を手で覆いながら言うジン君は、耳も首も赤くなってる。
演技なのに凄い。
ユンジ「恥ずかしがり屋だから止めてあげて」
ナム子「じゃあユンジが教えて?」
ユンジ「お断り」
ナム子・ジミン「えーっ!」
ユンジ「恥ずかしいもん! もーやぁーあー!」
ジン君の真似をして、顔を覆ってみる。
ごまかせたかな?