紫色から始まる~エピローグ①
カーテンを開ける音がして、急に眩しくなる。
「ユンジ、起きて。良い天気だよ」
ジンの声にうっすら目を開けると、雲一つない青空が見える。
眩しさに眉を寄せながら、逆光で黒いシルエットになったジンに返事をする。
ユンジ「おはよ……」
ジン「ほら顔洗って。朝ごはん作るから」
週末の朝は、ジンが朝食を作ってくれる。
メニューもバラエティーに富んでいて、先週はコングクスだった。
今日は何だろう……。
キッチンから卵をフライパンに落とす音がする。
コーヒーの良い匂い……顔洗ってこよ。
ジンと私は今、一緒に暮らしている。
就職してから二人で部屋を探した。
もっと早く一緒に暮らしても良かったのだけれど、ジンが首を縦に振らなかった。
彼なりのケジメだったのかもしれない。
何回かケンカもしたけれど、居心地良くずっと一緒にいられるのは、ジンがいつも機嫌良くいてくれるからだ。
夜遅く帰ってきて、軽くご飯を食べてそのまま寝てしまう事も多い。
普段はゲームをしたり、映画を見たりして、リセットしている。
そんな時、私も静かに本を読んだりしている。
私にも一人でリセットする時間が必要だからだ。
いくら好きでも、四六時中ベッタリでは息が詰まる。
お互いを確認できる位置で、それぞれ好きな事をする。
その距離感が、私達は合っていた。
ジン「今日はお酒も飲みそうだし、タクシーで行こうか」
ユンジ「そうだね……何か緊張して飲み過ぎそう」
ジン「オレも酔っちゃうかも」
ユンジ「私も」
ジン「飲み過ぎないようにしないと……ヤー、今日の希望トースト良く出来てる」
ユンジ「うん、イチゴジャムもいいけど、マーマレードも合うね」
いつものように、のんびりと朝ごはんを食べて、出かける支度を始める。
いつもより念入りに化粧をして、薄い水色のワンピースに袖を通す。
保美江さんのデザインした綺麗な形のワンピース。
今日の為に選んだものだ。
リビングに入ると、茶碗を洗っていたジンが、私の爪先から頭まですっと見た。
ジン「ヤー、完璧だ」
視線を外して誉めたその耳が、赤くなっている。
懐かしい。
こういうところ、変わらないな。
ユンジ「ありがとう。ジン君もいつもより格好良いよ」
ジンは、やはり今日の為に新調したスーツを着ている。
ジン「ヤー、ジン君って、『君』って。懐かしいな」
ユンジ「うん、出会った頃を思い出してた」
ジン「……もう十年か」
ユンジ「まだ十年、でしょ」
無言でこちらを見てくるジンの首が赤くなり始めたから、そろそろ止めとこう。