紫色から始まるⅡ⑧
着替えたけど……いや無理。
ナム子も顔が引きつりすぎて白目剝きそうになってる。
保美江「さ、私も着替えて行くから、テテと一緒にリビングに行っててもらえる?」
ユンジ「あの、保美江さん、私達やっぱり着てきた服で……」
保美江「何言ってるの! とっても似合ってるから自信持って!」
と、廊下に押し出されてしまった。
テテ「ユンちゃん早く行こう! パパ達待ってるよ!」
テテちゃんに手を引っ張られてリビングに向かうと、こちら側に背中を見せてソファに座ってる誰かが見えた。
振り向いたのは、ジミン。
ユンジ・ジミン「! 何その恰好?!」
大声で言ってしまってから、慌てて声を潜める。
ユンジ「保美江さんに強引に着替えさせられたの。本当に恥ずかしい」
ジミン「いやユンジちゃんは女の子だからまだ良いじゃん! 俺、この恰好……ナム子に見られたくないよ」
ユンジ「あー……あれ、ナム子?」
来た方を見ると、ナム子が廊下の壁に張り付いて自分の姿を隠している。
ナム子「私……とても出られない。ジミンに見られたくない、嫌われたくない」
ジミン「それは俺のセリフだよ。この恰好……」
テテ「みんな、かわいいよー。ドレスアップだね」
ジミン「テテちゃん、どこで覚えたのその言葉」
反対側の廊下から、ジン君とジョングクさんの声が聞こえる。
ジン「ヤー! 家族だけならともかく! 僕の友達にもさせるなんて!」
ジョングク「誕生日パーティーのお決まりじゃないか。楽しんだ方が勝ちだよ」
ジン「勝ち負けじゃない!」
ドアが開いて入ってきたのはジョングクさんと、ジョングクさんに羽交い絞めにされたジン君。
ジン君が私達の恰好を見て固まる。
そりゃそうよね……メイド服ですもの。
ジン君は赤いチャイナドレス、ジョングクさんは白いメイド服を着ている。
テテ「パパ! かわいいね!」
ジョングク「似合うかなー。今日の為に一生懸命選んだんだよ。テテ、気に入ってくれた?」
テテ「うん! ボクもにあう?」
ジョングク「今日は白雪姫なんだね。とーっても可愛いよ」
テテ「わーい!」
凍り付いた私たちの横で牧歌的な会話。
普通の服だったら、普通の微笑ましい会話なのに。
ジミン「ナム子、こっちおいでよ。もう腹くくろう」
ナム子「でも、でも、私だけ服が違う」
ジミン「え、そうなの?」
そう言いながらジミンがナム子に近づいた。
ナム子「嫌だ、来ないで、見ないで!」
ジミン「ナム子……俺の恰好見てみなよ、意外と似合うだろ?」
ショッキングピンクのメイド服を着たジミンが、スカートを広げて可愛いポーズを決めてみせる。
ナム子「……可愛い」
ジミン「だろ? ナム子は俺以上に何でも着こなすし、大丈夫。嫌うなんてある訳ないだろ?」
ナム子「本当に?」
ジミン「本当」
ナム子が恐る恐るリビングに入ってきた。
胸元に大きな赤いリボン、ツインテールのカツラ……セーラームーン!
ナム子「何で私だけアニメなの?」
ジミン「分かんないけど……凄く可愛いよ」
ナム子「本当に?」
ジミン「嘘なんてつかないよ。ナム子本当にスタイル良いね、似合ってる」
ナム子「ジミンがそう言うなら……」
ジミン「せっかくだから、写真撮っても良い?」
ジミンがスマホでナム子の写真を『良いねぇ、良いねぇ』と言いながらバシバシ撮っている。
ナム子もテンションが上がってきたのか、どんどんポーズを取り始めた。
テテ「ボクもとってー!」
とテテちゃんがナム子によじ登り始める。
ナム子がテテちゃんを抱きかかえると、
ジョングク「おお、テテ可愛いぞー。ナム子ちゃんは脚が長くてスラっとしてるね」
とジョングクさんもカメラを構え始めた。
ジミン「ちょっ、お父さんナム子撮るの止めてください! あと脚も見ないでください!」
ジョングク「えー何で?」
ジミン「ナム子の脚を見ていいのは俺だけです!」
ジョングク「しょうがないじゃん、テテも写したいし」
ジミン「脚はダメです!」
ジョングク「分かった、上半身だけテテと一緒に撮るね。テテこっち向いてー」
テテ「パパー♪」
ジョングク「ナム子ちゃんもこっち向いてー」
ジミン「ナム子こっち見て!」
ナム子「え、私どっち見ればいいの?」
……何この状況。
て言うか、ジミンって意外と焼きもち妬きなんだな、びっくり。
ジン「ヤー、色々ごめん」
隣で呆然としていたジン君が口を開いた。
ユンジ「うん、ビックリしたけど、何か慣れたわ」
ジン「子供の頃からの誕生日の習慣なんだ、コスプレ。まさかユンジちゃん達にも着せると思わなかった」
ユンジ「子供の頃から?」
ジン「うん。僕が大きくなってからはしなくなってたんだけど、テテが生まれて復活した」
廊下の奥から保美江さんの声が聞こえてきた。
保美江「お待たせー」
ジョングク「待ってたよハニー。おお、今年も素敵じゃないか。テテの好物だね」
保美江さんがウフフと嬉しそうに笑う。
テテ「ママー! ママ、イチゴちゃんだ! 可愛い!」
保美江「可愛い? ママ嬉しい」
テテ「ボク、イチゴだいすき! ママもだいすき!」
保美江「テテ……ママ嬉しすぎて泣いちゃう」
テテ「ママーなかないで、いいこいいこ」
保美江「テテありがとう。さぁ、パーティーを始めましょうか」
ジョングク「パーリーパーリーYeah♪ さ、みんなグラスを手に持って」
保美江「テテ、お誕生日おめでとう! 乾杯!」
全員「テテちゃん、お誕生日おめでとう♪」
テテちゃんが嬉しそうに、にっこり笑った。