紫色から始まる⑪
夜風が熱くなった唇を冷やす。
くっつけている額から、ジミンの熱が移ってくる。
ナム子「……」
ジミン「……」
ナム子「……あのさ」
ジミン「ん?」
ナム子「わがまま言っていいかな」
ジミン「?」
ナム子「ラーメンの匂いした」
ジミン「あっ! さっき食べた……」
ナム子「私も一応女なので、あの、初めてのキスには夢や理想があって……さすがにラーメンの匂いはちょっと……」
ジミン「そ、そうだよね。あ、『一応女』とか言わないで。俺の彼女はちゃんと女の子だから」
ナム子「えっ? あ、うん」
ジミンってこんな事言うんだ。
何て言うか……くすぐったい。
知り過ぎる程知ってたはずなのに、初めて見るジミンが渋滞して、軽く目眩する。
きっとこれから、今まで知らなかったジミンがたくさん現れるんだろうな。
そんな事をボンヤリ考えてる前で、ジミンがどうしよう、どうしようと言いながらアワアワしている。
あ、そうだ。
ナム子「ジミン、口開けて」
開けられた口にポイっとキャンディを放り込む。
ジミン「あ、これ俺の好きなイチゴ飴!」
ナム子「これ変わらなくて美味しいよね」
ジミン「久しぶりに舐めるとやっぱ旨ーい」
空にはプラチナ色に輝く満月が浮かんで、辺りをふんわりと明るく照らしている。
しばらく無言で飴を食べていたジミンが、大きく息を吸い込んで、両手を私の肩に置いた。
ジミン「飴でラーメンの匂いも消えた事ですし、改めてキスしたいと思います!」
ナム子「いやいやそんな力強く宣言されても……雰囲気ぶち壊しですけど」
ジミン「フム! だよね」
そう言って笑うジミンは普段のジミンで、何だかホッとしてつられて笑う。
ジミンが笑って、私を見ている。
ふわふわして不思議な気分。
変わっていくもの。
変わらないもの。
これからのジミンから目が離せない。
ううん、離さない。
ジミンの顔が急に目の前に来て唇を塞いだから、私は目をつぶって、イチゴの匂いを吸い込んだ。