名古屋市の学習用タブレット使用中止を検証してみた
名古屋市がいわゆるGIGAスクール構想に基づき小中学生に配布したタブレットについて、当面の間その使用を中止するという報道がありました。
Yahooニュースのコメント欄は大賑わいです。
コメント欄の先頭に掲載されている有識者は使用中止に関して否定的な意見ですが、果たして実態はどうなのか、検証してみました。
委員会録画中継をチェック
なにはともあれ、発端となった委員会を見ないことには話になりません。
6/9の教育子ども委員会です。
ログの収集については1:56:00頃からですが、その前の1:48:40頃から始まるタブレットの選定方法も本件と関係がありますので、そちらから見た方がより理解が深まるでしょう。
質疑をしているのは公明党・さわだ晃一議員です。さわだ議員の質疑は2:38:00頃まで続きます。
なお、以下はわかりやすく文字に起こしたものですので、発言内容は実際とは異なります。委員会の雰囲気を含め、詳細を確認したい場合はぜひ委員会録画をご覧ください。
余談ですが、私はこのあとの自民党・ふじた和秀議員の質疑を含め、最後までの約2時間を視聴しました。検証以外の個人的感想はここでは控えますが、非常に見応えのある委員会質疑だったことはお伝えしたいと思います。
それでは質疑の内容を順に見ていきましょう。
タブレットのOSがWindowsとなった理由
Q 他団体では小学校はiOS、中学校はAndroidと分けているところもあるが、全てWindowsとした理由は。
A 名古屋市情報あんしん条例に規定するアクセスログを適切に取得する場合、Windowsが最適であったためWindowsとした。
早速聞きなれない条例が出てきました。調べたところ、セキュリティポリシーにおける基本方針にあたる条例ですが、一部対策基準の内容も包含しているようです。
情報あんしん条例の第22条において、必要に応じてアクセスログを取得することとされています。端末のアクセスログを適切に取得するにはWindows端末でなければならなかったという説明です。
オンプレサーバを構築した理由
Q 国がクラウドバイデフォルトの方針を掲げる中、オンプレサーバを26憶円かけて構築しているがその理由は。
A 16万台のタブレットのアクセスログを常時取得するためには、クラウド事業者ではかえって割高になるため、オンプレで構築した。
驚愕の事実です。仕様が不明なため詳しくは論じませんが、さわだ議員によると同じ政令市の横浜市はフルクラウドとのことですし、全国的にも珍しいケースのようです。結果的にこのことが個人情報保護条例違反との指摘を受ける要因となります。
アクセスログを常時取得する理由
Q 必要なとき必要な分のアクセスログをクラウド事業者から提供してもらえばいいと思うので、市で常時取得する理由が理解できない。
教育委員会が情報あんしん条例で重視すべきと考えているのは第22条との理解でよいか。
A そのとおり。
情報あんしん条例を所管する総務局が重要視しているのは第7条だそうで、ここで総務局との見解の相違が明らかとなります。
Q 情報あんしん条例の解釈について総務局と正式に協議したか。
A 正式な協議はしていないが相談は行った。
Q 情報化推進課からはどのようなアドバイスがあったか。
A クラウド利用の際は審査会に諮る必要があるとのアドバイスがあった。
このあとさわだ議員も指摘していますが、クラウドは審査会が必要だからオンプレでいこうと判断したと取られても仕方のない流れです。もちろん、担当としては急いでいた等の理由があることは容易に想像できます。
個人情報保護条例違反の指摘
Q アクセスログを常時取得することを児童生徒に事前に説明しているか。
A 了解を得る必要はないと認識しているが、利用目的の明示はしていない。
オンプレがゆえにアクセスログの取得は個人情報の保有とみなされ、個人情報保護条例第7条に違反するとの指摘です。
(追記)指摘されたのは「同意を取っていない」ことではなく、「目的を明らかにしていない」ことです。
(保有の制限)
第7条 実施機関は、個人情報を保有するに当たっては、個人情報を取り扱う事務の目的を明確にするとともに、当該目的を達成するために必要な範囲内において行わなければならない。
いかがでしたでしょうか。使用を中止しても子どものためにならないとの指摘はもっともですが、手続きに問題があったことは否めません。
説明責任を果たさなければならない執行部側の人間としては、身の引き締まる思いのする出来事です。
最後に
委員会録画を視聴して驚愕した事実がもうひとつあります。それは名古屋市がコンビニ交付に未対応ということです。
委員会でも指摘されていますが、市長はマイナンバーが大嫌いのようです。そして今回指摘をした議員はマイナンバーを推進する公明党と自民党です。こういったこともここまで追求が鋭くなった要因なのかもしれません。
なんにせよ、ご担当者の皆さまお疲れさまでした。
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