オンライン申請に電子署名は必要か
挑発的なタイトルでスミマセン。個人的には、「基本的には必要だけど、画一的でなくていいのでは」と思っています。
今回は久しぶりに再燃しそうなこの問題(?)について取り上げます。
先日このニュースを見て「お?」となりました。
マイナンバーカードを使ってオンラインで入園申し込みができる県内自治体はほかにもあるが、那覇市ではカードがなくても、マイナンバーなどを入力して申請できるという。
カードがなくても?電子署名いらないの?また国に怒られるんじゃないの?
真っ先に思い出したのは渋谷区のeKYCです。電子署名を用いないことが、セキュリティの観点、法律の観点から問題があるとされたのです。少し長いですが、2020.4.3の記者会見における総務大臣のコメントを引用します。
問:東京都渋谷区が、LINEのアプリを使って、住民票の写しの交付請求ができるサービスを始めたんですけれども、本来、対面交付が原則だと思うんですが、このサービスについて、総務省の受け止めを教えてください。
答:渋谷区で、今月から、LINEで請求情報を入力して、本人の画像と本人確認書類の画像を送信して、住民票の写しを請求できるサービスが開始されたことは承知しております。
ただ、オンラインによる請求手続でありますが、電子署名を用いない方法でございます。
したがって、画像の改ざんやなりすましの防止といったセキュリティの観点、法律の観点から問題があると思います。具体的には、住民基本台帳法でございます。
総務省としては、オンラインで住民票の写しの交付を請求する場合には、電子署名を付して本人確認を行う必要がある旨を助言する通知を全市区町村に対して発出するとともに、渋谷区に対しましても、丁寧にご説明を申し上げて、改善を促してまいりたいと思います。
この後省令改正などの紆余曲折を経て、現在では電子署名を用いる方法に変更され運用されています。
自治体の創意工夫を軽んじているとか、イノベーションの芽を摘むのでないかとか、様々議論はありましたが、ID管理の観点から解説している以下の記事は、セキュリティを考えるうえで非常に参考になります。裏を返せば、プライバシーレベルによっては電子署名は必ずしも要しないと示唆しているようにも感じます。
那覇市の方式は是か非か
さて那覇市のオンライン申請に話を戻します。渋谷区の事例と大きく異なるのは以下の2点です。
①住民票の交付ではなく保育園入園の申し込みである
②根拠法令の所管が総務省ではなく内閣府である
上記の総務大臣コメントと同日に発出された総務省通知によれば、住民票のオンライン申請に電子署名が必要とされる理由は以下のとおりとなります。
①住民票の請求時には厳格な本人確認が必要なため、オンライン申請においても厳格な本人確認である電子署名(と電子証明書の送信)が必要
②主務省令のただし書きは、厳格な本人確認が求められる手続きにおいては適用できない
総務省関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則第4条第2項
2 前項の規定により申請等を行う者は、入力する事項についての情報に電子署名を行い、当該電子署名を行った者を確認するために必要な事項を証する電子証明書と併せてこれを送信しなければならない。ただし、行政機関等の指定する方法により当該申請等を行った者を確認するための措置を講ずる場合は、この限りでない。
総務省通知と同じ理屈で考えるならば、「保育園入園の申し込みにおいて厳格な本人確認が求められているか」がカギとなりそうです。
また、根拠法令が違うので、オンライン申請の際に電子署名が必要か、不要とするただし書きがあるかは、内閣府の主務省令によることになります。
内閣府の所管する内閣府本府関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則第4条第2項
2 行政機関等が指定するところにより電子署名を行うこととされている申請等をする者は、前項の規定により入力する事項についての情報に電子署名を行い、当該電子署名に係る電子証明書であって、次の各号のいずれかに該当するものと併せてこれを送信しなければならない。ただし、当該申請等が行われるべき行政機関等の指定する方法により当該申請等を行った者を確認するための措置を講ずる場合は、この限りでない。
総務省令とやや書きぶりが違います。申請ごとに電子署名が必要かどうか決まっているようです。また仮に必要だったとしても、ただし書きがあるので不要とする余地もありそうです。
電子署名がなくてもいいのかの答えは、最終的には内閣府が個別に判断しないとわからないということでしょうが(すでに那覇市が内閣府の確認を取っている可能性もあります)、現場の印象としては、証明交付ほど厳格な本人確認は求められていないように感じます。
電子署名が必要かどうかは、利用者の使い勝手や自治体のオンライン申請への取り組みに大きく影響する事案です。今後同様の事案については、セキュリティやプライバシーに配慮しつつ、合理的かつ実効的な判断をお願いしたいと思います。
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