具体と抽象を行き来して伝わりやすい会話をめざすコツ
はじめに
先日、細谷功さんの「「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする 29 問」という本を読みました。特に印象的だったのは、具体化と抽象化の本質的な意味についての洞察です。この学びをもとに、より効果的なコミュニケーションの方法について考えてみました。
具体化と抽象化の本質を理解する
具体化とは「逃げ道をなくすこと」
よく見かける目標設定の例を見てみましょう:
「営業力の強化」
「顧客満足度の向上」
「業務効率の最適化」
これらの目標は、達成したかどうかの判断があいまいです。なぜでしょうか?
それは「逃げ道」が多すぎるからです。例えば「営業力の強化」は:
「商談件数は減ったが、成約率は上がった」
「大口案件は取れなかったが、小口案件は増えた」
など、どのように解釈しても「達成した」と言える余地が残ってしまいます。
一方で:
「月間商談件数を 20 件から 30 件に増やす」
「既存顧客の契約更新率を 85% 以上にする」
という具体的な目標には逃げ場がありません。
抽象化とは「本質を切り取ること」
抽象化で重要なのは、それが「切り取る」作業だという認識です。この「切り取る」という言葉は日常的に使用される「切り取り」とは異なる意味を持ちます。
一般的な「切り取り」
一連の話の中の自分に都合の良い部分だけを抜き出すことで、これはいわば横の世界での多くの情報量から一部の情報を抜き出すことを意味しています。
抽象化における「切り取り」
取り多くの属性の中から一部の属性を切り取るということで、それが「縦の世界」での切り取りを意味します。
具体↔抽象ピラミッドにおいて、上の方が幅が狭くなり単純化されていることからも、抽象化によって様々なものが切り取られていることがわかるはずです。
実践的なコミュニケーション改善のコツ
多くのコミュニケーションの行き違いは、この「切り取り」に対する無自覚さから生まれます。
我々 3 次元を生きる人間が 4 次元を認識できないことと非常に似ています。具体で考える人は、一つ上の抽象の世界を認識できないので、抽象的な表現を使用されると、理解できず、コミュニケーションギャップが生まれるのです。
コミュニケーションギャップ解消のヒントは、この具体と抽象を行き来して、会話における認識の齟齬を埋めることにあると思います。
具体化のステップ
曖昧な表現を見つける
「改善」「向上」「強化」などの言葉に要注意
数値化できる要素を探す
時間、回数、金額、比率など
期限や条件を明確にする
いつまでに、どのような状態になれば達成なのか
抽象化のステップ
自分が何を切り取っているか意識する
なぜその要素に注目しているのか
何を無視しているのか
相手は何を切り取っているか観察する
相手の関心がどこにあるのか
どの要素を重視しているのか
切り取る範囲を調整する
状況に応じて視野を広げたり絞ったり
まとめ
効果的なコミュニケーションの鍵は
具体化では「逃げ道をなくす」という意識を持つ
抽象化では「何を切り取っているか」を自覚する
相手の視点や切り取り方にも注意を払う
これらを意識することで、より明確で建設的な対話が可能になります。まずは日常会話の中で、自分の言葉の具体度と抽象度を意識してみましょう。そして、相手の「切り取り方」にも注目してみてください。