個と群れのダンス
妹が癒しの少ない私にNetflixのアカウントを分けてくれた。
私は興奮した。
「The Last Danceが見られる!」
マイケル・ジョーダンという史上最高レベルのバスケットボールプレイヤーというよりは、史上最高のアスリートと彼の率いるシカゴブルズが2度目の3連覇を目指した年のドキュメンタリーだ。
そのとき私は中学生だった。スラムダンクでバスケットボールを知り、シカゴブルズとジョーダンで虜にされた。毎日のようにボールを持って、下校した道をまた戻り、日が暮れるまでバスケットゴールに向かってボールを放り続けた。
中学ではバスケ部に入ったが、2~3年生時はスポーツ貧血で思うようにプレーできず、バスケが嫌いになりかけていた。嫌い、というよりもそれは憧れゆえのひがみみたいなものだった。もっともっとプレーしたかったし、足が動かなくなるまで練習したかった。貧血が完治したのは高校2年の時だった。その時はもう、バスケをやめ、洋楽ロックに夢中になっていた。
私は今中規模の塾の講師をしている。専門は英語だ。洋楽ロックへのあこがれが、その後私を英語の世界へと駆り立てた、のだと思っていた。
しかし、The Last Danceを見て、それは少し違っていたのだと気づいた。洋楽にはまるもう少し前に、私は強烈なインスピレーションをシカゴブルズから得ていたのだ。
ホームゲームで選手が入場してくるとき、必ずかかる曲がある。それが"Sirius"という曲だ。
そして、野太いダミ声のナレーターが
"And now, your five-time world champion, Chicago Bulls!!"
と選手紹介を始めていく。ライティングも手伝って、そのカッコいいことカッコいいこと。中学生の私の胸は打ち震えた。そして、こんなに今となってはこんなに簡単だと思える英語をしゃべっていたにもかかわらず、Chicago Bullsのところ以外は何を言っているのかわからなかった。
"From North Carolina. At guard, 6'6''. Michael Jordan!!"
のところも、(選手紹介のときの独特のこぶしまわしのせいもあったとは思うが)何と言っているかわからなかった。
だからわかりたかった。
この群衆に紛れて一緒に興奮したかった。ジョーダン、ピッペン、ロドマンの圧倒的個性にも魅了されたが、バスケでも、サッカーでも、野球でも、ロックでも、心を最後の瞬間に突き動かすのは群衆の歓声なのだ。
思い思いにコートに向かって叫ぶ群衆がかっこよかった。
ぼくはアメリカにあこがれ始めた。
そういうことを、群衆を恋しく思いながら、思い出していた。
いやー、The Last Dance、めちゃくちゃいい。たまらない。