自動ドアと労災
バスケと語学のほかに、昨年末くらいから少しずつ取り組み始めているのが「ファイナンシャルプランナー3級」の勉強だ。
お金にはとんと無頓着で、家計の管理も妻に任せっきりで来たのだが、なんと家を建ててしまった。妻のたっての希望だった。私は正直怖くて乗り気ではなかった。やはり借金を背負うというのが億劫だったのだ。
ちなみに今はとても妻の決断に感謝している。施工業者との細かい詰めも本当に頑張ってくれて、私は立ち入る隙がなかった。(なのであまり自分が建てた家みたいな感覚がない)
さて、住宅ローンである。
これを35年で完済しなければならないが、妻は繰り上げていく気満々らしい。たしかに、そうできれば問題ない。
それをするためには私にあまりにお金周辺の知識が不足している気がしてならなかった。家計の管理にきちんと参加をするためにも、何か資格を取りながらその勉強をしておこうと思ったのだ。
仕事が繁忙期だったため、勉強は遅々として進まなかった。
そういうときに、参考書や問題集を開かせるモチベーションを与えてくれるのが、
「ツッコミどころの多い問題」
であるのはもはや論を待たないだろう。いや、待つか。
FPの過去問は〇×の二択クイズが多いから、「×」が答えの問いを設定すれば、当然不自然さをはらんだ文章になるのは致し方ない。ただ、以下のような状況は、いったいどういうことなんだろう、という想像を掻き立ててくれる。
「休日に家族とドライブに出かけた際に、会社の取引先の親しい担当者へのお土産を買うことを思いついて立ち寄った店の自動ドアに手を挟まれてケガをした場合、労災保険の保険給付を受けることができる。」(2011年1月出題)
知識がてんでない私ですらこれをよんで思わず、
「んなわけあるか」
とつぶやいてしまった。
まず、この人は「かなりハード目な営業畑」の人なのだろう。でなければ取引先の人にわざわざお土産を買おうと思い立たないだろう。だって家族とのドライブだよ。旅行ですらないんだよ。この発想ができるのはハード目の営業の人以外になかなか考えられない。
そして、立ち寄った店の出合頭で「自動ドアに手を挟まれて」いる。一体どういうふるまいをしてしまったのか。いろいろと可能性を探ってみたくなる。ただほぼ確実に次のようなことが起きていると考えられる。
・この人は、自動ドアの前で立ち止まり、自動ドアが開いて、閉まるまで自動ドアの前にいて、閉まりきる瞬間に手を出してしまったので自動ドアに手を挟まれている。
自動ドアが開いてから閉まるまでは一定の、長めといっていい時間が流れている。その長めの時間の間に何があったのか気になる。
①家族に呼び止められて、後ろを振り向いて一言二言やりとりをしている間に自動ドアが閉まった。
「ちょっとお父さん、財布、車にわすれてたわよ」
「ああ、すまんすまん」
ー手を挟まれるー
なるほど、むしろ妻の過失の度合いが高い可能性もあるのか。そんなタイミングで呼び止めんなよ、と。
②自動ドアの前に立ったらぼーっとしてしまい、気が付いたら手だけ前に出ていた。
そんな人、この地球上にいるのだろうか。
「自動ドアの前に立つと、急に意識を失う」
「でも、片手だけは前にでる」
どういうシステムなのか、考え始めることができない。
また、注目すべきはこの人が「ケガ」をしているということだ。
最近の自動ドアだから、挟まった瞬間にまた開いてくれそうなものだが、この人の場合は以下のような可能性が考えられる。
・自動ドアが手を挟んだまま、一定時間強い力で圧迫し続けた。
それはケガをするだろう。ほとんど拷問器具で、そのような特殊な自動ドアを設置した店側の過失が問われそうなものだ。
・自動ドアが閉まる部分ではなく、壁と自動ドアの境目に手を滑り込ませてしまった。
何がどう間違ったら人はそういう行動に出ることができるのだろうか。考えるだけでも胃のあたりがぎゅっとなる。
「自動ドアが閉まるのを止めたいから、自分の手で起点からつぶそうとしたんです」
バカなのか。そりゃあケガをする。
「それで、これって労災おりるんですかねえ?」
かねえ、じゃねえんだわ。
正解は「×」
『取引先へのお土産購入でも、私用中は労災の対象にならない』
という参考書の解説はもっともなのだが、問題はそこではない気がするのだった。