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アイネクライネナハトムジークで出会った普通の春馬くんに思う

Twitterを見ていたらお母さんに「夫となる人のお店での店員さんに向ける態度が10年後のあなたに向けての態度よ」と言われたという娘さんのつぶやきに映画「アイネクライネナハトムジーク」の一場面を思い出した。


魚定食&トンカツ定食

大きくなった美緒ちゃんが高校生になってご飯屋さんでアルバイトをはじめると横柄な態度のすごいクレイマーおじさんと遭遇してしまい
クラスメイトの彼が自分のお父さんから教えてもらったトンチの効いた返しで窮地を救われるというところ。

クラスメートの彼は、高校生で家族でご飯屋さんにやってくる。
両親と夕飯を食べに来て、お父さんのオーダーが魚定食を頼んだのにトンカツ定食が出てきたという、ありそうな展開にオーダーを間違った店員さんに、「これも食べたくないわけじゃないからこれでいいよ」と折れて
息子が協調性の高いお父さんをつまらないと言うシーン。
「俺は平凡なつまらない大人にはならない」とつぶやきお母さんに、「そんなこと若い時にはみんな考えて大人になる。あんたの言っていることなんか、周回遅れなんだよ」と言われるシーン。

アイネクライネナハトムジークは、出てくる人たちによくある映画のようなドラマティックな展開は起こらなくて
ごくごく日常生活を送るたくさんの人たちの
もしかしてあるよね。こんなこと。ということを複数の登場人物の10年くらいの時間の経過を物語で見せてくれる伊坂幸太郎さんの原作を映画化したものだ。

仙台で、ペデストリアンデッキで

舞台が仙台で物語の主人公は春馬くん演じる
佐藤と多部未華子ちゃん演じる紗季を中心に進むのだけど、なんかとってもありそうでなさそうな
ハートフルな映画だ。

佐藤と紗季の出会いは佐藤の会社での先輩の
藤間さんが、なにかがあったわけではないけれど
日常のなんてことのない価値観の違いの積み重ねにある日、奥さんに家を出て行かれてしまい
ショックで会社で壊れてしまい
後輩の佐藤が、暴れた藤間さんによって
失くしたパソコンのデータを集めるために
アンケートを仙台の街中で頼んでいるところから始まる。

ジェシーになったり元康様になったり五代友厚様をやったりしている春馬くんが、
仙台のペデストリアンデッキで「アンケートお願いします」と通って行くひとりひとりに声をかけて、すげなく無視されている。
そこで多部未華子ちゃんの紗季が通りかかり、
「いいですよ、アンケート」と言い
「いいんですか?」と佐藤が聞き返し
「ダメですか?」と紗季に言われる。
という言葉から始まるふたりの関係性。

こんな普通の人を三浦春馬が演じると


佐藤は、普通の会社員。
大学生の時に出来ちゃった結婚で出来すぎた美人妻と結婚しているちゃっかりな友達を持っている
さっきご飯屋さんでアルバイトしていた美緒ちゃんは、このふたりの子供でこの時には10年前の
ちっちゃなオマセな女の子で登場する。

佐藤はこんな平凡な毎日のどこかに
劇的な出会いがないかなぁ、なんて思っていて
つい道を歩いている時に落とし物を拾って素敵な人と出会うことなんか、ないかなと妄想して
通勤の途中でついキョロキョロしてしまったりしている。そんな様子がどこか可愛い。

そんな佐藤を美人妻をゲットした、くだんの
ちゃっかりな友達が「劇的な出会いがいいんじゃなくて出会った人があなたで良かったって思えることが大事なんだよ。」なんて説教されている。

ひとは、すでに自分の手にあるものは、どこか当たり前で、まだ自分が手に入れていないことや 特別な人に出会えるのではないかとつい夢想しがちだけれど

実は手に入っているものが
かけがえのない大事なものなんだと
気づけるかどうか
なんだよということなんだと思う。

10年付き合ったからって結婚するかなんかわからない


10年の時間が流れて、佐藤と紗季は一緒に暮らしている。
姿もちょっと落ちついた容貌になっていたりして、意識して声も低く話すようにしたと春馬くんが言っていた。

「10年も付き合っているんだから結婚でもしない?」と、なんとも残念な言葉で、
せっかくセッティングしたレストランで伝え損なって家の前の駐車場で、若干お腹を押さえつつ、とんまなプロポーズをしてしまう佐藤。

紗季に「なんでさっきレストランで言ってくれなかったの?」と突っ込まれ、「僕らの付き合いももう10年になるから、そろそろいいかと思って」という答えに「私たちの関係って10年一緒にいるから結婚しようってことなの?」と聞かれ、
答えられない佐藤に、なんで一緒にいるのか、
わからなくなったと家を出ていかれてしまう。

10年前に家を出ていかれてしまった会社の先輩の藤間さんのようでその所在なさげな様子に、いるかもしれない、こんなどこか抜けているひととつい心配してしまう。そんなプロポーズしてたら結婚する前に
呆れられて別れてしまいそう。
でもこれね、春馬くんがやっているってところが
とてもミソなのかもしれない。

紗季に家を出ていかれた佐藤は藤間先輩のように壊れる前に会社を休んで、ふたりが出会ったペデストリアンデッキに紗季を探しに来て偶然バスに乗って行ってしまう彼女を見かけて猛然と走って追いかけていく。
ここでの佐藤は、まるでTwo-weeksの結城大地のようで、そのバスの追いかけぶりがひたすらかっこよくて仙台の街中を何度も追いかけ続けていく。

そこでそんな必死に追いかけなくても
スマホのラインでも携帯でも連絡取れるんじゃないの?と思うけど、そこがどこかズレてる佐藤なんだろうね。

やっとのことで追いかけている佐藤に気づいた
紗季にバスを降りてもらってふたりは会える。
必死に追いかけて伝えた言葉は

「やっとわかったんだよ。
10年前に会えたのが紗季ちゃんで良かったって、
あの時に会えたのが君で良かったって」

伝えられたのにそこで紗季の返事も聞かないで、
やってきたバスにまた一方的に押し込んで 
にこにこ笑って別れて行くズレている佐藤。
違うやんとまたツッコミたくなる。

仙台の街で暮らしているよね

この映画のあったかさは、どこかズレて
どこか言葉が足りなくて、でもとっても互いが大事で、みんな一生懸命毎日を生きているんだよと伝わってくるところだと思う。

ほんの行き違いですれ違ってしまうこともあるけど、手に入っているものは実は唯一無二のもので、だから手にしたものをそんな簡単に離しちゃいけないんだよって伝えてくれるところ。

ある日紗季のいない家に向かって
コンビニ弁当を片手に家路に着いた佐藤は
暮らす家に灯りがついて紗季が帰って来てくれた事に気づく。

ドアを開けて
「ただいま」「お帰り」
「お帰り」「ただいま」

互いが互いに言葉をかけ合う佐藤と紗季。
最初のただいまとお帰りは佐藤と紗季で、
次のお帰りとただいまは、春馬くんと多部ちゃんだったかもしれない。

人生を生きているって
もしかしたら「魚定食」と「トンカツ定食」のように選択の連続で私たちはちいさな選択を繰り返しながら生きていて
「魚定食」にこだわり続けで生きている人もいるかもしれないし、「魚定食」って思ってたけど「トンカツ定食」も美味しいしって
切り替えられる人もいるかもしれない。

でも選んだこっちで良かった。
こっちが良かったって思えれば
それがきっとシアワセにつながる気がする。

今でも仙台では、紗季と佐藤は暮らしていて
ズレている佐藤は紗季に怒られながら
楽しく暮らしているのかもしれないなんて想像している。

そんなふたりの空の上には、
7月の天の川があるのかもしれないって思ったりする。


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ろーず
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