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「最高の離婚」と「ファーストキス」で坂元裕二脚本を観る

脚本家の坂元裕二さんの名前を認識したのはドラマ「最高の離婚」だった。面白いけれど坂元作品独特の妙なドラマだった。笑。

東北大震災で東京の交通機関がマヒし、帰宅難民が大都会にあふれていた。
こぞってみんなが自分の家に向かって歩いていた。
震災によって日常は、非日常に可視化されて、
個人主義で生きていた日本人がやっぱり家族っていいよね。一緒に誰かと生きるって良いよねとたくさんのカップルが生まれたと聞いている。

「最高の離婚」の夫婦もそうだった。
ドラマのなかで夫婦になってみたものの、自分たちの価値観の違いに気がついたふたりは互いの欠点をあげつらって罵り合う。
そんななかで奥さんが好きだった三浦春馬くんの名前がセリフに出てくるのだ。

ドラマの世界で現実の俳優が奥さんの好きな俳優として旦那さんから非難される。笑

なんて斬新なセリフを書く人なのだろうと驚いた。
言い換えればそれぐらい三浦春馬という俳優は、奥様たちが大好きな定番な俳優さんだと捉えられていたのだろう。

「三浦春馬」ならドラマのセリフとして出てきてもお茶の間に説得力があるとして取り上げられたってことだ。

これは、ファンとしては喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。

だって肝心な坂元裕二さんは、春馬くんをドラマには呼んでくれていない。
とうとう坂元作品に出る春馬くんを観ることができなかった。

そんな件の坂元裕二さんの脚本である。
映画「ファーストキス」を映画館に観に行ってきた。
予告映像が綺麗で、松たか子さんが一生懸命走っているシーンがリフレインのように使われていた。
なんか気になる映画だなと思ったけれど坂元作品だとは気がつかなかった。

わたしが映画を観に行く基準は、ストーリーに惹かれるか、役者に惹かれるか、監督に惹かれるか、脚本に惹かれるか。

坂元作品には定番のように出てくる「松たか子」さんとそして今回は「松村北斗」さんが共演されている。

春馬くんのことがあってからミーハーだったわたしが地上波ドラマをいっさい見なくなって、いまの旬な俳優さんにたいする認識がほとんどない。

名前を言われても「誰?それ?」状態ですっかり浦島太郎になってしまった。

とうぜん「松村北斗」さんと聞いても、誰それ?と
ファンには失礼の極みで、映画を観ながら喋るセリフの「声」が印象的な役者さんだと思った。

それは声質そのものだったのかもしれないし、
坂元脚本の膨大なセリフにより、たくさんの話す声を聞いたからかもしれない。

彼の話す声やセリフが、とても耳に心地よくて、そして陰影がある役者さんだという印象であった。

名前を覚えておこうと思って後で調べたら、三宅唱監督作品の「夜明けのすべて」にも出ておられた俳優さんだと気がついた。

パニック障害になって電車に乗れなくなって、上白石萌音さん扮するヒロインの同僚の役どころの俳優さんだった。
その時にも繊細な演技をされる印象があった。
「夜明けのすべて」は、派手さはないけれど、人の心の動きと日常の大切さ、生きていることの尊さを表現している作品だった。

そして映画「ファーストキス」である。

まだ封切りされてまもない映画なので、ストーリーを書くとネタバレであろうが、物語りのはじめに主人公の女性は大切な人を失う。

ふたりは「最高の離婚」の夫婦のように長く暮らしていくうちに恋愛から生活になり、互いの価値観の違いに失望していく。
そして一緒に暮らす意味をなくして離婚を考えはじめていた。そんななかでのパートナーの事故死である。

生活を共にしていることでの摩擦。
それじたい小さなことなのに繰り返し積み重なっていくと、なぜか許せなくなっていく。そしてなぜ一緒に暮らしはじめたのか、互いにとって自分の存在ってなんなのかと疑って傷つけあってしまう。

彼も彼女も今日は明日へとあたりまえのようにつながって、そして互いの存在があたりまえになっていくことで大事なことをどんどん忘れていくのだ。

ある日彼女は、ふとしたことがきっかけでパラレルワールドに迷い込み、そして「起きてしまった最悪なこと」を起きなかったことにするために奮闘していく。

わたしにも身に覚えがあるけれど、この夫婦のすれ違いも恋人のすれ違いも普通に起こることだ。
だって価値観なんて違うのがあたりまえで、違うからこそ遺伝子的にも惹かれあうのだ。
なのにいつしか違いを楽しめなくなり、傷つけあう。
そして互いが唯一無二だったことを忘れていく。

そしてキーワードは、もうひとつ。
「起こった最悪のこと」を無かったことにする。

無かったことにしたい。
わたしも主人公の女性のようにいっぱいいっぱい考えてきた。なんならわたしだって何度だって行動する。

どうしてこんなことが起こったのか。
なぜこんな悲しいことに向き合わなければいけなかったのか。

映画のなかに答えはあったろうか。
私たちにあるものはいま、この瞬間だけだ。
この瞬間を抱えて生きていくしかないのだ。
だって「いま」は二度と来ないのだから。

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ろーず
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