推しの子第13話感想…脚本家志望者としては、あまりに辛いリアル
二期の開幕早々、物語が濃くて面白さが凄い推しの子、最新話の感想を書きたいと思います。
第十三話「伝言ゲーム」あらすじ
人付き合いが苦手な『東京ブレイド』原作者・アビ子。そんな彼女が、メディア化の現場でうまく立ち回れるのかと危惧する先輩漫画家の頼子だったが、いざ稽古場を訪れるとその不安が的中して──
最近、現実社会でも問題になった「原作者」と他媒体展開の軋轢を描いたこの2.5次元舞台編、あまりにもタイムリーだと話題になっていますね。
どこにも「悪」がいないから、解決しない
脚本の内容に原作者が待ったをかけて、舞台の稽古が止まってしまう今回の話。前回ラストで作者・アビ子が「全部直して」と言い、稽古場が凍り付いた…という引きから、アビ子側、舞台スタッフ側のこれまでのやり取りが説明され、認識がズレたまま状況が進んでしまったことが明らかにされます。決して作者が無理難題を言ってきているのではなく、直のやり取りがなかったがゆえに、というところ、まさに現実でも起こっている問題そのものではないかというリアルさがありましたね。
「原作者VS舞台スタッフ」という構図ですが、どちらも悪意はないわけですね。作者が舞台化を土壇場で白紙に戻そうとゴネているのではなく、一から自分で脚本を書く、無報酬で構わないと言い張るほどです。
一方で脚本家も舞台版を成功させるべく「他の仕事をズラしてまで受けた」「魂を込めて書いた」と言っており、それを否定され愕然としている様子は傷ましいことこの上ありません。
ただただ、他の媒体で展開する難しさが突きつけられた話なのですが…。
泣きそうになりました。
まさに私が行こうとしている世界、そこで起こっているやりきれない悲劇だからです。
私は以前シナリオセンターに3年ほど通っていて(現在も籍は置いています)、そこで柏田道夫先生の教えを受けました。「武士の家計簿」などを手掛けた方です。
前回の12話でGOAさんが言っていた
・脚本家は汚れ役
という言葉もさることながら…
作品が評価されても自らにはスポットが当たらないこと、逆にマイナスな評価は自分に降りかかってくるという理不尽さ…これら全て、柏田先生も仰っていたことなんですね。この推しの子で描かれる脚本家の苦悩は、誇張でもなんでもない、純然たる事実である、ということです。
私自身も現在、プロの世界の門の前に立っています。だからこそ、この生々しい創作の世界のリアルが胸にきました。と同時に、覚悟はより強くなったといっていいでしょう。「面白さ」とは違う次元で、アニメに心を揺さぶられましたね。
…推しの子、凄い作品です。
それでありながら、面白いアニメなところもしっかり
しかしこんなにリアルな困難を描きながら、重くなりすぎないように適度に「緩めて」くるのもこの作品の巧いところなんですね。
これだけ、製作者の熱意が飛び交う舞台の現場で主人公のアクアは相変わらず冷めており舞台ってショボい…といったところにあかねちゃんがその凄さを見せてあげる、と観劇に誘ったところで今回は幕引きでした。
来週もメチャクチャ楽しみですね。私ももちろん映画をよく観る人間で映像作品の虜ではありますが、エピローグであかねちゃんの言った
「舞台は、映像の上位体験ができるもの」
という演劇人の矜持、とても共感できるものだったからです。
去年、今年と続けてまさにその2.5次元舞台であるリコリス・リコイルを観てきたところで、その素晴らしさはこちらの記事に綴ってあります。場所や料金など、映画鑑賞よりハードルは高いですがその分忘れられない強い体験ができる…それが舞台、生のお芝居です。
来週、その価値をアクアが実感するのであればおおいに楽しみであります。
「どうだアクア、舞台ってスゴいだろ?」
と、意味もなくドヤってしまいそうですから。
とにかく今回の話で思ったのは、「露骨な悪人」がいなくとも、むしろいないからこそ困難な状況になる…という作劇のヒントですね。私自身、過去に書いた作品はわかりやすく悪役がいました。その方がスッキリすると思っていたからですが、安易な考え方だったなと襟を正す思いです。
さて、今後はどうなっていくのでしょう…。
アクア、本名のほうがとんでもネーミングで笑えます。
前回の感想はこちらです。