シン・ウルトラマン脚本論・風変り主人公の魅力をゾーフィが語る
人間好き過ぎリピアー君
〇禍特対本部(夜)
T「ゼットン殲滅から一ヶ月後」
滝明久(2?)がパソコンに向かっている。キーボードを早く叩く音。ふと手を止め、目をこする。
滝「あぁ、今日はこの辺でいいかな。遅くなっちゃった」
滝、モニターの脇に置かれたUSBメモリに目をやる。視線を止め、考え込む仕草の後、それをパソコンに挿す。画面に表示されるファイル一覧。それぞれフォルダの下に名前があり、「神永より」「ベーターシステム」「高次元領域」と名称が並ぶ。その並びに映る「コンタクト」という未開封フォルダ。
周囲を見渡し、落ち着かない様子でそれをクリックする滝。
新しいウィンドウが開き、金色の頭部、白い眼をした外星人の顔が間近に映る。
滝「うわぁっ!」
驚き、椅子ごと後ずさる滝。
外星人「私の名はゾーフィ。この星の原住生物である人類の監視者だ」
滝「う、ウルトラマンじゃないんだ。ゾーフィって、確か」
ゾーフィ「そうか、君はリピアーの知人なのだな」
滝「リピ…?えっ!?」
ゾーフィ「この星ではウルトラマンだったな」
滝「と、とりあえずもう少し離しません?」
ゾーフィ「ああ、失礼。ところで、私に何か用かな」
滝「い、いえ別に用は…神永さんのデータを見てただけで」
ゾーフィ、少し顔を引く。
ゾーフィ「すると、君がゼットンを倒す方法を導き出したアキヒサ・タキか」
滝「え?あ、はい、まぁ僕だけじゃないですが」
ゾーフィ「滝、今、光の星では君の所業を高く評価している」
滝「あ、ありがとうございます」
ゾーフィ「ウルトラマンが自らの命を賭して守ろうとした、この星の人間の代表者として君の名が挙がるほどだ」
滝「そんな、そこまで…って、あの、ウルトラマンはやっぱり、その、死んじゃったんですか」
ゾーフィ「彼がそれを望んだ。神永に自分の命を与えたいと」
滝、俯き神妙な面持ち。
ゾーフィ「どうした?」
滝「神永さん、ネロンガ襲来の時からの記憶がないんです。ウルトラマンだった事とか、浅見さんのことまで何もかも忘れてしまってて」
ゾーフィ「それが不都合なのか、滝」
滝「そういう訳じゃないんですけど」
ゾーフィ「ウルトラマンが、君たちを守った結果だ」
憤慨する滝、目に怒りが浮かぶ。
滝「そもそも、あんたがゼットンなんか持ってきたからじゃないか!」
ゾーフィ「それが掟だったからだ」
滝「聞きましたよ、地球ごと廃棄処分だって!なんだよ光の星って、何様なんだよ!!」
ゾーフィ「……」
滝「なんとか言えよ、ウルトラマンを死なせたのはあんたなんだ!」
ゾーフィ、間を置いて顔を小刻みに揺らす。
訝し気な滝。
ゾーフィ「なるほど、リピアーの気持ちがようやく理解出来た」
滝「はあっ?」
滝、力が抜ける。
ゾーフィ「滝、君はウルトラマンが好きなのだな」
滝「す、す、好きっていうか」
ゾーフィ「リピアー、ウルトラマンも同じことを言った。本星の決定は過ちであると」
背もたれに身体を預ける滝。
未知のものへの、愛
ゾーフィ「私は、既にこの映像記録を130億回視聴している」
滝「ファクトかよ、病気じゃないですか」
ゾーフィ「ウルトラマンの行動を理解するためだ」
滝「そんなに観ないとわからないのかよ」
ゾーフィ「解ったのは、生物は未知のものに惹かれるということだ」
滝「それは、僕もそうですけど」
ゾーフィ「地底禍威獣・ガボラとの戦いまでは人間側もウルトラマンを謎の巨人として認識しているが、その後神永新二と同一体である事が判明し君達禍特対は彼を全面的に信用している」
滝「同時にザラブがいたせいでもありますけど」
ゾーフィ「では君達は何故ザラブを信用出来なかったか、そこにウルトラマンの心情を紐解く鍵があった」
滝「つ、つまり何がどういう話なんですか?」
ゾーフィ「神永の行動も含め、君達人間が個体で完結していない、群れを成している生物であることにウルトラマンは興味を持った。まず観察者の立場であり危機の時だけ干渉する。この存在に人間達は「救世主」という思考概念を当てはめ、特に間近で見ていた君達禍特対は偽者が現れても違和感が先に立ち、ウルトラマンを疑ってはいなかった。対してザラブは、危機でなくとも積極的に関わろうとしてくる。そこに警戒心が働くのは自然なことだ」
滝「まぁ、メフィラスもそうでしたね。押し売りのセールスマンでしたから」
ゾーフィ「その根幹が人間への関心か、悪意かという差だ。ウルトラマンはその献身的な行動で、人間の信頼を得ていたのだ。他の外星人との明らかな違いだと言える」
滝「ウルトラマンを嫌いな人なんていませんでしたよ」
ゾーフィ「しかし滝、君はウルトラマンに嫌味を言っていた気もするが」
滝「いやそれは…色々複雑だったんですよ!別に嫌いなわけじゃなくて」
ゾーフィ「やはり、人間は面白い」
頭を掻く滝。
神永新二という異形の主人公を好きになれるか
ゾーフィ「この映像記録は、地球でも大変好評だったと聞く。我々にとって興味深い事案だ」
滝「でもですよ、神永さんは何も覚えてなくて…可哀想なんです」
ゾーフィ「残念ながら、リピアーと融合していた間の記憶はリピアーのもので、神永が思い出す術はない。だが君が惻隠の情を示すという事は、神永という男には以前から人望があったようだな」
滝「優秀な人でしたから。ちょっと変わってましたけど」
ゾーフィ「ほう」
滝「寡黙で単独行動が多くて、何を考えてるのかよくわからないんです。でも分析は的確で行動力もある。頼りになるようなならないような不思議な人です」
ゾーフィ「そんな人間だからこそ、ウルトラマンは理解したいと考えたのだろうな。映像記録を見た人間も同じ感情を抱いた、それが評価の源泉となったということか」
滝「確かに僕達も、ウルトラマンと話が出来たらいいのにってずっと思ってましたね。どんな性格なんだろうって。結果的には神永さんと大差ない人でしたけど」
ゾーフィ「ウルトラマンも、地球でザラブやメフィラスの悪意に触れることで君達との友情を確固たるものに感じていたようだ」
滝「はぁ…」
ゾーフィ「君の立案を躊躇なく実行した事からもそれが表れている」
滝「僕、ウルトラマンに恨まれてないだろうか」
ゾーフィ「それはない。ウルトラマンは本当に地球を、人間を好きになったのだ。だから滝、君も彼を好きでい続けて欲しい」
滝、涙ぐむ。
滝「はい、…はい、はい!」
ゾーフィ「ウルトラマンも、間もなく報いを受け終え次は正規の任務として地球の監視者へ復帰する」
滝「えっ!?」
目を丸くする滝。
ゾーフィ「人間との融合は禁じられているが、新たな生物に関する知見を得るに至った有益な事例として酌量の余地が認められた。ウルトラマンの肉体は既に光の星に帰還し蘇生処置が施されている」
滝「ウルトラマン生きてるんですか!?」
ゾーフィ「ああ、地球では生命は一度費えると戻ることは無いのだったな。その為に霊魂、神仏といった概念が発達しているとも聞く」
滝「マジかよ…良かった…」
ゾーフィ「既に地球での生活を想定した、他外星人とのレクリエーションも行っている、その様子がこれだ」
モニターの映像が切り替わる。
ゾーフィ「どうした、滝?」
滝「いや、しばらくは地球に来なくていいです」
滝、PCをシャットダウンする。