推しの子第17話感想…捲土重来に魅せられた「アニメならでは」
推しの子第十七話、「成長」を観ました。
あらすじ
優秀な『東京ブレイド』出演陣に囲まれて、メルトは無力な自分に苦しんでいた。『今日あま』での後悔をバネに地道な努力を続けてきたメルトに、アクアが授けた秘策とは──!?(公式サイトより引用)
この作品にしては珍しい、ひたすらオーソドックスな「凡才の覚醒話」でしたね。とても清々しい気持ちになれました。
いや、本当に下手なの?
メルトという、強者の中の弱者がむしろその弱さを武器に輝く…という回でしたが、もともと「周囲より劣っている感」があまりしなかったので、いや、この子そんなに下手じゃないんじゃないかー。みたいに見えてしまっていました。
なんでもそこそこ、ゆえに熱くもなれない。2年前にあったアニメ映画「アイの歌声を聴かせて」にも同じようなキャラがおり、そちらは好きな事に没頭できる友人を羨ましく思っている、という少年でした。メルトもタイプ的には同じですが、彼は「そこそこ」でプロフェッショナルの世界に飛び込み、劣等感に苛まれるというよりキツい境遇なんですね。かといってやめる、あきらめるという選択肢も取れず、その苦しみと向き合う回でしたが…。
中学入ってすぐ先輩に喰われた、とかモテ方が素晴らしいですね。十代前半でそんな経験をしては万能感を持ってしまっても無理はないでしょう、彼は悪くない。っていうかうらやましい(笑)。
何より今回、メルトが自分の見せ場に全てを注ぎ込むその熱量を、エヴァンゲリオンの精神描写を思わせる描き方で表現していたのがインパクトありましたね。演技はお客さんに響けば成功なので、最終的に上手い下手すら関係ない、という領域の話になることがあります。コンプレックスを抱えている人間だからこそその領域までジャンプできることがある、それをしっかり伝えてくれていました。「役者」「演技」の神髄に切り込んだ、見事な演出だったと思います。
違う分野の見せ方、を痛烈に謳う作品
今回のこの2,5次元舞台編、最初が舞台スタッフと原作者の衝突という問題からスタートしていますが、解答としては
「メディアが変われば見せ方、観客を感動させるツボも変わる。それぞれの専門家が最大限に良いものを作ろうとしているのはどんな作品でも同じ。各々に携わるものがそれを理解せずに自分の正解を言い合っていては、不幸な結果しか生まない」
というテーマで伝えています。
そして、作中でアニメでしかできない原作を超えたものを魅せてくる…という昨今現実でも起こっている問題に対しての強烈なカウンターをぶつけてきたように感じました。
今回、Aパートをまるまる「舞台をそのまま」見せるような構成にしたのもプロが仕事をする現場である、ことを実感させるためなのかな、と思いましたがここのリアリティが凝ってましたね。この本格的な舞台において、己の力不足に悩むメルトがいかほどのプレッシャーを感じているのか…を伝えてて来る、力の入ったシーンだと感じました。「東京ブレイド」なる作品はよくわかりませんし、ぶっちゃけ面白いのかコレ?みたいな(アビ子先生に失礼)感覚で観ていましたが、役者陣が魂を込めているのが伝わってきたので、そこはとても素晴らしかったと思います。
演技そのものの醍醐味も味わえるアニメ
常々思っていますがこのアニメ、メインキャスト陣は
「演技をしている役者」を演じているのが凄いなと思います。普通に考えると役としての星野アクア、有馬かなといったキャラが作品の中で芝居をしている、というシチュエーションだけの話なのですが、経験者として考えると役のこと、心情は当然、画面に映るもの以上に深堀りしなければいけません。役が作品内で演技をしているのだから、当然その思考が二重になるわけです。非常に難しく、また器用さが求められる作品だといえます。
「今のはどう見えた?上手くいったかな?」という顧みを常に課していかなければいけない、圧迫感すらある役者という仕事をドラマの中で面白く見せてくる、いい作品ですね。
今回はアニメの中で演劇を描き、舞台に生きる役者を描くというまっすぐな物語の中に「アニメならでは」を織り込んでくるハイレベルな一編だったと思います。私ももう一度一期の今日甘を見直して、メルトがいかに下手だったかを再確認したくなりました(笑)。
次回はいよいよアクアとあかねのシーンが出ますでしょうか、楽しみですね。推しの子、本当に毎回面白いです!
これまでの感想記事はこちらです。