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駄菓子屋経営で見つけた、“つながり”の魔法
いま僕は「駄菓子カフェ」を経営していますが、新卒で入ったのは地元の老舗企業、木工家具のメーカーでした。
学生の頃、僕はこう思っていました。
「木工なんて、地味で面白くない。」
言ってしまえば、親がよく使う家具屋で、なんだか古臭いイメージ。どこの家具も同じように見えるし、変化がない世界に思えたんです。
そもそも僕は木工製品が好きではありませんでした。家にある古びた食器棚を見て「捨てちゃえばいいのに」と思うくらい。でも、その会社を選んだ理由は単純でした。「近いから」と「すぐ辞められるだろう」という軽い気持ち。
実は、僕はもともと自分で何かをやりたいという気持ちが強かったんです。高校生の頃から手作りアクセサリーをフリーマーケットで売ってみたり、友人と小さなイベントを主催してみたり。でも、いざ本格的に起業する勇気はありませんでした。
そこで、「まずは何かのスキルを身につけよう」と思い、軽い気持ちで家具メーカーに入りました。
けれど、現場を知るにつれ、僕の心はどんどん変わっていきました。「家具づくり」という地味に見えた仕事が、実は奥深く、感動を生むことを知ったからです。
最初の2年間は、工場の作業員として働きました。そこでは、木材の選定から加工、塗装まで、家具がどのように作られるかを学びました。
驚いたのは、作業の一つひとつが「使う人の暮らしを想像しながら行われる」こと。職人たちは「この椅子に座る人がどんなふうに過ごすのか」をいつも考えながら、丁寧に作業をしていました。
さらに、製品が完成し、ショールームで展示される様子を見ると、ただの「モノ」ではなく、人の生活に寄り添う「存在」になることを実感しました。お客様が椅子に座り、笑顔を浮かべながら「これがいいね」と家族で選んでいく光景を目の当たりにすると、「家具って、生活を支えるパートナーなんだ」と感じたのです。
5年後、僕はその会社を退職し、地元に戻って駄菓子屋カフェを始めました。昔ながらの駄菓子と、手作りの小さな木のテーブルが並ぶカフェ。
このカフェを始めたきっかけは、木工家具メーカーでの経験があったからです。「家族の絆を支える家具」からインスピレーションを受け、「地域のつながりを生む場所」を作りたいと思ったのです。
カフェを始めてみると、子どもたちがお小遣いを握りしめて駄菓子を選ぶ姿や、親子で楽しむ様子を見るたびに、「やっぱり人と人をつなぐ場は素晴らしい」と実感しました。
駄菓子屋経営で大変なのは、派手さがなくても日々の積み重ねが大切なこと。お菓子の補充、掃除、常連さんとの会話……。けれど、木工家具の現場で学んだ「地道な努力の先にある感動」を信じ、続けています。
今では、地元の人々が「ここが私たちの居場所だ」と感じてくれる場所になりました。駄菓子屋カフェを通じて、僕が伝えたいのは「モノではなく、気持ちでつながる世界」です。
駄菓子屋カフェを始めたことで、僕が本当に大切だと思ったのは、「人と人をつなぐ力」です。それは家具でも、お菓子でも変わりません。今後も僕は、地域のみんなが笑顔になる“つながり”を育てていきたいと思っています。