ひとりからふたり。紡ぐ。繋がる。前編

俺の名前はカズヒロ。
5年間勤めたルート配送の仕事を退職し、
次の仕事を探すまでコンビニのアルバイトに就いて一ヶ月。
昼間勤務は忙しく、3人のパートさんと自分の4人体制だ。
もともと昼勤に入っていた社員さんは
自分が入ったことによって夜勤にまわった。


『ありがとうございましたー!』

昼のピークを過ぎると一気に客足は減り、
売場の整頓に入る。
ちなみに、
パートさんのうちお局2人は
レジでダベっている。

『カズヒロくん!ほらお菓子の補充して!
おい広田!早くゴミ出し行ってこい!』

広田サオリさん。
多分5歳くらい年下。
めっちゃかわいい。
多分相当モテる。
広田さん目当てで来る客もいっぱいいる。
でも、お局たちのせいでまともに会話したことはない。

まぁ、仕事だし。
あんま露骨に話しかけるとさらに広田さんイジめられそうだし。
社員さんに『広田さんとあんま仲良くなんないでね』ってクギさされてるし。
いやあんたは夜勤のコに手ぇ出してんだろ?
知ってるよ?

・・・でも、広田さんが誰よりも頑張って働いてんのは見ててわかる。
それにかこつけて仕事振りまくるとか、
正直なんかすげぇヤだ。
そんなんただのひがみじゃん。
だから少しでも広田さんがラクになるように、
力仕事はサポートするようにしてる。

そんな折、
千載一遇のチャンスが巡ってきた。
夕勤2人が2人とも、休みがほしいと言ってきたのだ。
ひとりは大学のテスト期間、もうひとりは風邪だって。
もともとテストのやつの代理は自分の予定だったが、
急遽の風邪のやつの代わりに
広田さんが入ってくれることになった。

理由なんてどーでもいい。
やっと広田さんと2人で話せるチャンスだ。

『あーよかったぁ。
わたし、カズヒロくんに嫌われてるかと思ったぁ。』

『えーだってあんま親しげに話すとさぁ、
あの2人がまた広田さんのことイジめるじゃん。』

『あー・・・まぁね。笑
わたしどこ行ってもそうなんだよねぇ。
なんでだろ。笑』

『そりゃ広田さんがかわいーからでしょ。』

『へぇ?』

『へ?笑
自覚ないの?笑』

『そんなことないよぉ!』

『そんなことあるって。笑
実際社員さんも狙ってたっぽいしさぁ、
お客さんだって広田さん目当ていっぱいいるでしょ?』

『あれはからかってるだけだよぅ。』

『違うって。笑
まぁだからおばちゃん2人がひがむ気持ちもわからんでもないけど・・・
でもあの命令の仕方はないよね。』

『うん・・・
靴隠されたりアクセサリー盗まれたりもしてるしね。』

『そなの!?』

『うん。
2人のしわざかはわかんないけど。』

『そっかぁ・・・それはヒドいね・・・。
・・・俺、思うんだけどさぁ、
世の中、モテる人間とモテない人間いるのはしょうがないよ。
評価される人と、どんな頑張っても評価されない人がいるのと同じでさ。
それは、自然の摂理だと思う。
だからさぁ、
それに対して、イジめたり露骨に態度に出すのって違うと思うんだよね。
今ある自分で生きてくしかないし、
それを否定してもしょうがない。』

『へぇ〜。
カズくんの考え方、おもしろいね。笑』

『面白くないよぉー。
俺、両方だもん。』

『両方?』

『うん。
モテんし評価されん。笑』

『あー・・・ごめん。笑』

『いやいーよ。笑
でも、だからなんかわかるんだよね。
モテるモテないに関してはしょうがないこと。
でもさ、
広田さんはそうやってイヤミな扱い受けてても
ちゃんと誰よりも仕事してんの、
すげぇなぁって思って見てる。
でも、重いのとか大変なのとかあったら言ってね?
いつでも手伝うからさ。』

『ありがと。』

『うん。』

『頑張ってるの見ててくれて。』

『あ、そっち?笑』

『うんそっち。笑』

お客さんいるのに、レジ対応以外ずっと喋ってしまった。
夜勤と交代30分前に大急ぎで補充と片付けをした。
それくらい、話が止まらなかった。
自分はかわいいと思ってるから当たり前だけど、
向こうも止まらないくらい返してくれたのが嬉しかった。

そして夜勤さんとの交代の時間。
13時間勤務の終了。


『おつかれさま。
ありがとねぇ広田さん助かったよー。』

『わたしは明日休みだからだいじょぶだけど・・・
カズくん明日も朝からでしょ?
だいじょぶ?』

ささやかな気遣いが嬉しかった。
てか・・・

『なんか途中から呼び方「カズくん」にかわってるけど?笑』

『あ、うん・・・
「カズヒロくん」て呼びづらくて・・・
イヤだった?』

なわけない。

『いや、うんいーよ。笑
てかさ・・・』

『ん?』

『・・・・・。』

『なぁに?』

『・・・・・。
いや、まぁいーや。』

『なによぉ。笑
なんか顔赤いよ?』

『・・・いや、うん・・・
あのさ・・・この後、時間あいてる?』

一世一代の大勝負。

『・・・・・。
カズくんは明日だいじょぶ?』

『俺は、うん。
なんとでもなる。』

『・・・そっか。
ちょっと待ってね?』

スッ・・・
スススッ・・・スンッ・・・
『うん。だいじょぶだよ。』

『えっ、どっかにンライ送ったみたいだけど・・・
予定あるならそっち優先してよ。』

『ううん。
カズくんと一緒にいた方が楽しそうだし。
どこ行く?』

『えっ・・・あ。
どこ行く?笑』

勢いで誘ったものの、どこ行くとか考えてなかった。

『カズくんラーメン好きってゆってたじゃん。
わたしお腹すいたぁ。
食べ行こ?』

『え。そんなとこでいーの?』

『別にどこでもいーよぅ。
行こ?』

続く→

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