見出し画像

エビ中楽曲のマニアック解説

私立恵比寿中学、通称(エビ中)は2025年で結成16年目(メジャーデビュー13年目)を迎える女性アイドルグループですが、この長い活動期間に多様な「スタイル」(ジャンル)の楽曲を生み出しており、音楽マニア(洋楽マニア)的な視点で見ても、とても面白い事をやっていると思いますので、その中から厳選して紹介していきたいと思います。


1.ポンパラ ペコルナ パピヨッタ

女の子の素っ頓狂なセリフのコラージュと、ちょっと下世話なオペラ風のコーラスがハードなプログレ的サウンドに乗る・・・といっただいぶ狂った楽曲です。(「五五七二三二〇」という変名プロジェクトでの楽曲です)

ネタ元を探したのですが、どうやらFrank Zappaのアルバム”Ship Arriving Too Late to Save a Drowning Witch”(「ザッパの◯✖︎△」とかふざけた邦題になってるやつです)が主なネタ元になっていると見ています。オペラ風のコーラスはこの曲から。

Frank Zappa - Teen-Age Prostitute (1982)

そしてこのアルバムで、Zappaの娘Moon(当時15歳だったかな?)が当時US西海岸のティーンエイジャー女子の独特な喋り口調でセリフを捲し立てる曲が収められていて、それがこの曲です。

Frank Zappa - Valley Girl (1982)

「ポンパラ・・・」ではこの2つの要素「下世話なオペラ風のコーラス」「ティーンエイジャー女子のお喋り」という要素を軸に、シンフォニーロック的なオーケストラのリフ、ファンキーでヘビーなベース(レッチリ、フリー風?)、ブライアン・メイ印のギターサウンドなどを組み合わせ。といった趣になっています。

2.夏だぜジョニー

ビッグバンドをバックにしたロカビリーバンド的なサウンドの楽曲です。ブギを基調としたリズム、ホーンセクションのリフにトワンギンギター、おそらくネタ元はBrian Setzer Orchestraのこの曲であると思われます。

The Brian Setzer Orchestra - This Cat's On A Hot Tin Roof (1998)

Brian Setzerのネオロカビリーのルーツを更に遡れば40年代後半~50年代のミドル~スモールサイズのコンボを従えた黒人R&Bにも行き当たります。

Big Joe Turner - Shake, Rattle, & Roll (1954)

歌詞の内容はピンクレディーの「渚の・・・」をもじったコメディタッチですが、米黒人音楽に限らずポピュラー音楽に欠かせない「コメディ」的要素を、日本の女性アイドルがやったら?的な趣にもなっていると感じたりします。このコミカルさを楽曲、ライブパフォーマンスで存分に発揮できるのもエビ中の一つの強みであったりします。

3.君のままで

疾走感溢れるストレートなギターロック。パンク~ニューウェーブを経由した90年代英米のメインストリームのロックのニュアンスが感じられます。当時から数多く見られたコンセプトであったりしますので、直接的なリファレンスを特定するのは難しいですが、とりあえず疾走感やギターサウンドに共通するものを見出せるこの曲を。

Rhett Miller - Our Love (2002)

「君のままで」はメンバーが18~20歳前半の年齢となった2017年結成8年といった時期に制作された楽曲で、疾走感溢れるサウンドに乗って、表現力、歌唱力が爆発している楽曲であると思います。

結成当初のエビ中は平均年齢13~4歳で、拙いパフォーマンスを逆説的に楽しんじゃおうというニュアンスが大きかったのですが、年齢を重ねると共に歌唱力、パフォーマンス能力が向上していきます。この過程を追うことができるのもエビ中ファンであることの醍醐味の一つであると思います。

引用した動画は2024年のライブ映像で、近年新加入した10代の新メンバーの姿も見えます。新メンバーの成長をリアルタイムで追うこともできるのです。

4.感情電車

ポップなメロディーに何度も変化するテンポ、ベースライン、ドラム(スネア)の音色、ティンホイッスル的なシンセソロ、テープ逆回転風のSEなどThe Beatlesのこの曲を思い出さずにはいられません。

The Beatles - Magical Mystery Tour (1967)

さらには曲タイトルの「電車」やMVの「旅」に対して、”Strawberry Fields Forever”終盤(アウトロ)の電車のガタゴトや踏切音を模した楽器隊の「鉄道」「旅」といったテーマも想起されたり。

The Beatles - Strawberry Fields Forever (1967)

と、細かく聴けば聴くほどに、ビートルズ中期それもアルバム”Magical Mystery Tour”オマージュが満載された一曲であると思います。またエビ中メンバーの慈しみ溢れる歌唱がファン的には泣き所であったりします。

5.キャンディロッガー

(※動画2:56〜)

ギター(ベース)が先導するファンキーなリフとスクラッチ音によるアクセントが印象的なカッコいい曲ですが、タイトルを”Candy Rock Girl” と解釈する向きもあって、いわゆるロックチューンと呼ばれたりするのですが、リズムの構成要素を見ていくとJAZZ/FUNKの括りであるこんな曲との共通点があるかなと。

The Crusaders - Shotgun House Groove (2003)

ただ「キャンディ・・・」の横ノリ的気持ちよさとちょっと違う?と思ったりします。なのでもう少し聴き込んだりしているとスタジオverのアウトロにその答えがありました。(ライブverでは今ひとつ感じづらいのです)アウトロでのコンガによるラテン的なリズム。

スタジオver: [Spotify] [Apple Music]

実はこのリズムこそがこの曲のリズムの核でありました。つまりラテンファンク的なノリ。テンポは違いますが、イーストLAのいわゆるチカーノロック/チカーノソウルと呼ばれるラテン系バンドによるこの曲が、「キャンディ・・・」が持つ独特のグルーブ感に近いと感じています。

El Chicano - Cantaloupe Island (1970)

エビ中のボーカルも、巻き舌イキリ気味の感じがカッコよく、個人的にはエビ中楽曲でトップクラスに好きな楽曲なのですが、いわゆる「干され曲」(ライブでの披露はとてもレアな曲)なところが残念なのです。

6.星の数え方

清廉なメロディーにエビ中の真摯なハーモニーボーカル。エビ中楽曲の中でもトップクラスの名曲バラードです。スタジオverの比較的地味アレンジが、ライブverではボサノバ的なアレンジがされたり、熱が入ったボーカルスタイルになっていたりとしますが、この曲は是非ともスタジオverで聴いていただきたいと思います。

スタジオver: [Spotify] [Apple Music]

歌詞の世界観に寄り添うような「切なさ」が際立つ「抑えた」感情表現、これがシンプルなソウルバラード的なバッキングに乗ります。バッキングサウンドの構成要素やボーカルの切なさ、抑えた感情表現から70年代の名ソウルコーラスグループのこの曲(日本で言うところのスウィートソウル)を連想しました。

The Moments - With You (1976)

「星の数え方」をきっかけにエビ中楽曲に深く嵌っていった方々をSNSでもちらほら見かけたりしますが、筆者も長文をしたためるほどの嵌まり方をしておりました。(お読みいただければ幸いです)

と、ここまで6曲を取り上げましたが、エビ中は公式発表楽曲だけでも200曲以上、企画曲(ライブ限定やユニット曲など)を加えると300曲近くの楽曲があります。まだまだ解説しがいのある曲が沢山ありますので、多分続きます・・・