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お決まりのコース

 もともとがたいへん保守的な性格なのか、あまり冒険はしないで、いちど決めたことをなんども反復する。休日の過ごしかたもしかりだ。
 朝はかわらず六時に食べるものの、きょうは軽くにすます。というのも、十時半には、新大久保の「でりかおんどる」で定番のユッケジャンを食べるからだ。この店は十一時前にはいらないとすぐに満席になる人気店で、ほぼ女子がテーブルを占拠する。おかわり自由のパンチャン六種がついてたっぷりのユッケジャンとごはんで八百円ちょっとは、ほんとうに満足。
 がつがつ食べて、店をでたあとは、隣の惣菜店をのぞいたり、スーパーで買い物をしたりしながら、ゆっくりと新宿三丁目へと向かう。
 道中、その暑さになかばくらくらとしながらすすんで、花園神社に参っても、目的の末廣亭の開場まですこし時間がある。ふと見ればクーラーがしっかりきいているはずの新宿伊勢丹がそびえている。五階のエレベーター前の椅子でしっかり涼んだあと、三丁目へと渡る。
 なんの下調べもしないまま、木戸で三千円を払って末廣亭へとはいる。前から三番目の真ん中にどっかと陣取って、さて誰がでるのかと舞台下手上の寄席文字に目をやる。どうやら昼の部の主任は三遊亭圓馬らしい。これはたいへん楽しみである。
 幕が上がって、開口一番から飽きさせないプログラムに、伊勢丹ほどでないものの、ほどよい冷房がなんとも心地いい。中入りのころにはただならぬ入りに、はてどうしたものかと思って夜の部を見ると、神田伯山の名前がある。どうやら入れ替えなし公演を知った伯山目当てがそろそろと集まってきているらしいと合点がいく。
 こうなっては一気に通すかと考えたものの、トリを務めた圓馬があまりにもよすぎておなかいっぱいになり、夜の部のあたまの三席だけ観て、末廣亭をあとにした。

 いい落語を聴いたあとは、歌舞伎町のとば口にある大好きな居酒屋「番番」の階段を降りる。
 ここのサワーは絶品だ。美味しいつまみとともに二杯も飲めば、いい調子になれる。若い人も多くて、なんというか昔ながらの新宿の矜持ここにありと感じさせてくれるお店だ。新宿、渋谷、池袋といった山手線の巨大ターミナルで飲むことは、もはやほとんどないが、「番番」みたいな店がいまだにあることが、こっそりとうれしい。きょうは、圓馬の余韻をひっぱりながら、赤星とレモンサワーを三杯。いつもより一杯多く飲んだ。
 末廣亭の存続があやういと記事になったのはついせんだってのこと。それをうけてかどうかは知らないが、神田一門が夜の部を受け持つ七月上席はやんやの大盛況まちがいなしだ。
 変えていかなければならないこと、そして残していかなければならないこと。ひとりひとりの、芸能や文化への意思と気概が試されているのかもしれない。そしてそんな一見小さなことに思えることが、すぐにひかえた国政選挙の判断のひとつになるのではなかろうかと、総武線の吊り革にもたれながら、ぼんやりと思うのだった。

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