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ピカデリー

 ピカデリーといえば、映画館の一大ブランドだ。座席も設備もワールドクラス。一番の環境で映画を観ることができる。たとえ一週間であっても、新宿ピカデリーのスクリーンにかかるというのは、とても名誉なことだ。

「夜明けの夫婦」はいろんな意味で、小さな映画だ。予算も規模も機材も小さく、関わるひとも極端に少ない。新宿ピカデリーとは真反対の映画かもしれない。これは配給会社スターサンズの河村さんが遺してくれた機会なのだろうか。いずれ最高の上映環境を享受すべく、新宿にでかけた。

 一日に四回も上映がある。九階まであがった四番スクリーン。傾斜のあるゆったりとした座席につくと、気持ちはドキドキする。これから自分が参加した映画が流れる。お客さんはどれくらい来てくれるか、ちょっとばかり場違いじゃないだろうかなどと、普段の映画鑑賞では考えもしないことを思ったりする。ほんとはキョロキョロしたいところをぐっと我慢する。

 時間になって照明が落ちる。「夜明けの夫婦」がはじまった。前日のポレポレ東中野ほど、意識をとんがらせることなく観ることができた。耳に届くのは、やさしく自然な音質と適切な音量だ。自分が思い描いていた音像がそこにあった。しあわせだった。それはとてもしあわせな時間だった。

 ぼく自身のこれからの時間とキャリアを考えると、もうこんな贅沢な機会は訪れないだろう。ほんとはもう一回くらいピカデリーの客席に座りたかったけれど、いまは新潟へ向かう新幹線だ。もどってきたときには別の映画にかわっている。

 ポレポレ東中野、新宿ピカデリー。そしてまだ行っていないもうひとつの映画館、下北沢トリウッドも楽しみだ。馴染みのある街の映画館に、どんなお客さんがきてくれるかにわくわくする。さらに大好きな映画館シネマ・ジャック&ベティでの上映も決まったということで、こちらは野毛呑みを兼ねてでかけたい。

 それぞれの映画館に、それぞれの設備があり、それぞれの音が鳴っている。シネコンクラスの贅沢な音もうれしいけれど、独立系の映画館の、個性を感じる音も好きだ。なによりも映画館という場所にいることが、しあわせな時間なのだと思う。

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