「らっしゃいやぁせ!」
昼下がり、美容院に行く前に時間がぽっかり空いたので駅の周りを散策する。こんな蒸し暑い日はさっぱりしたものが食べたくなる。そんなことを考えているとちょうど良いところに蕎麦屋があった。ちろりと中を覗くと、食券機とカウンターだけの簡素な店構え。お客さんは誰もいない。カウンターの中で仏頂面のおじさんがせっせとネギを刻んでいる。その隣におばさんが座っているが、手元を見つめて微動だにしていない。暖簾をくぐり引き戸を開ける。おばさんがこちらに目をやり、手元を動かす。おじさんが下を向いたまま