角川短歌賞応募作品
ここのnote、毎月短歌の選者を依頼されてその発表用に作ったものなので、今後ここで何を書いたり発表しようか何も考えてませんでしたが、折角なので今年応募した角川短歌賞の作品を今年も終わるのでこっそり載せておきましょうか。
去年の10月から短歌やり始めて初期衝動でこさえた作品なので、今見るとかなり表現が拙すぎて恥ずかしいのですが、修正無しで載せたいと思います。
自分にとって短歌は、現在四十七歳でウーバーイーツ専業というどうしようもなく遣る瀬無いどん底の生活をどうにか文芸に昇華できればという思いから始めました。まぁ、この話は何か色々書きたくなりましたが長くなりそうなので何処かの機会に。
もう連作なんて思いつかんわ〜って思いながらもウーバーをやってるとドンドン歌が出来るのはこの仕事を選んで良かったこと。短歌に深く傾倒して生きてきた人間じゃないので、おそらくウーバーで生計立ててなかったら連作は勿論、短歌も酔った勢いで詠ってみました的な御遊びのものしかいまだに作ってないんだろうなぁと思います。
なので来年もウーバー連作で応募しようと思っています。もし受かったらここで発表しますが、受かってなかったら発表しませんのでその時は察してください笑
ではご覧下さい。ちなみにルビは画像を添付してるのでそちらも見ていただければと思います。
最後に今年短歌を通して繋がれた方々、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
独働の季節 高田拓実
いつの間に真冬の風が吹いてゐて誰か落としし言の枯葉よ
夕暮れにスマホが響く配達の依頼の知らせ 卓で震へり
配達の品を受け取るブロンドの少年ワレのカタコト通ジズ
ひつそりと息するやうに客応ふ電球のごと月は小さし
ラッシーとナンとカレーを届ければバッグに異国の匂ひ残れり
六本木某ビルのエレベーターにキャバ嬢三人と 天まで昇れ
うやうやしく客に応へる店員の半袖の端タトゥーのぞきし
閉店後しづもるマクドナルド前屍山の如くごみは聳れり
凍つる夜に、ため息吐けば霧ぞ立つ先の仕事も見え難きまま
冬夜には向かふに見ゆる信号が誰かが活けたやうに美はしく
灰色に立ちたるビルの一室に届けるあかときいろの仏花
寒さゆゑ尿意にもがく配達屋ユマリを運ぶ不審な動き
膀胱が軀の外にあるのなら眼ざしで以て 今は破裂す
多目的トイレの方が綺麗だし 理由はただのそれだけで行き
マンションの掲示板にある日本語と英語以外の文字を見てをり
五階から見ゆる景色が綺麗かな我が仕事であり我が家ではなし
十時間使はれ続けるブラックの自転車のロゴ酷く汚れぬ
街灯があかり消えさうパクパクと命乞ひたる君に声なし
246号路肩に鳩の轢死見つ破裂し平和に我が目飛ばせず
雪のない街に暮らして二十年余それでも春はゆき解くる見ゆ
行きつけの店などとくに無いけれど行けばウーバーさんと呼ばれて
桜舞ひまたひとつ歳とるわれは卒業できぬ不適合者よ
真昼間に疾風にバッグ諸共と飛ばされ残りし我の軟弱
信号待ちの間に本に目を落とすウーバーイーツ二宮の如
押しボタン式の横断歩道です。側にゐる君(君が押さなきや)
「ウーバーはいま稼げてる?」「まあ わりと」前の職場に お粥届けし
「暑つちい!」と愚痴る相手もをらぬまま声の零るる 独働の夏
囚はれし猿滑りの木拷問の如くギイイんギイイんとなく
夏の日の蝉の声音が好きだつた 記憶切り裂く擬音に殺意
炎天下我の首裏真つ黒に焼き尽くすもの神と云はれし
台風でカネに成らずの配達屋窓越しにずぶ濡れの亡者見ゆ
秋晴れの空の青さを仰ぎたる人間の狼藉照らされて尚
聳え立つタワマンにみる幾つもの四角のどれを塗り潰すのか
いくつものオートロックを通過して最上階にタピオカ置きつ
われ品を運ぶタワマンかつてわれ雑工としてゐた跡はなし
目が覚めてしばらく雨の音だけを聞きをり意志の砕かるる音
雨降りて合羽は我をまもれども手だけつめたし手だけつめたし
鈍色のレインコートに雨浸めり空は我との境界を越ゆ
三つ星のシェフの品を取りに行けば脚の見えない外人ひとり
窓の無い雑然とした厨房に獣が匂ふゴーストレストラン
日もすがらGoogleだけに学び得るコンビニに寄るやうな修学
配達のま暗き路地にさ迷へり此処ではスマホだけぞ明るき
アパートのわづかなドアの隙間から手だけが見える手だけお借りします。
友死にけり 十月十九午前四時おもひ溢れどことば浮かばず
しらぬ間に死 茜さす北参道の喧騒を消つ君による詩
儚きを噛み締めながら味の無いガムは未だに口内にをり
師が走る警光灯が紅薔薇のやうに夜更けの街に咲きたり
都会にはクラクションとふ言語での文字にならない怒声には成る
しんしんと語る相手もをらぬまま歌ほの白き 独働の冬
鳥に糞落とされ洗ふ公園に虚空に喋る無名の漫才師