【ショートショート】全てが金になる
東京に行くと、道行く人々全てが金に見えた。
見渡す限りの大量の人的資本、社会資本が列を成している。
東京は日本で最も物価が高い。狭い土地の中に、有名大学が密集している。偏差値と年収には相関関係がある。田舎の街では、拾おうとも思わないジャリ銭が転がっているだけだったが、東京には札束が呑気なアホ面を引っさげて歩いている。
そう心の中で強がったものの、目が眩むほどの資本の洪水に圧倒されて、動悸が止まらなくなった。
ここで、自分はビジネスをするんだ。
悪名は無名に勝る、どれだけ品性を疑われようとも名が知れ渡ればインプレッション(社会資本)を稼げる。インプレッション(社会資本)が、自身というアイコンに、大衆の認知の中で結び続けられれば、身体に広告としての能力が加わり、人的資本としての市場価値が上昇する。
まぁ、焦る必要は無い。なんせ、金はそこら中に散らばっている。悪名で稼ぐのは最終手段だ。なんせ悪名を広めるという事は、今までに稼いできた社会資本をレバレッジにかけるギャンブルなのだから。
今はとにかく、状況把握。知識を集め、人的資本を稼ぐ。人的資本という基底的な資産から固めていくのが、最も期待値が高く堅実な選択だろう。
東京のウィンドウショッピングは最高に楽しい。
あらゆる商品を見ていると、何万通りものビジネスのアイデアを思い付く。
もっとも商品それ自体の機能には、全くといっていいほど興味を持てないのだが。古着屋で、無造作に陳列されたボロボロのジーンズが普通にヴィンテージ価格で18万円の値が付けられているのを見た時は驚いた。
ボロボロのジーンズを着たいとは毛ほども思わなかったが、その商品に市場価格で18万円の交換券としての価値がある事を理解した。
そうと分かれば、格安ブランドの新品ジーンズこそが見るに耐えないゴミ同然の商品で、逆にボロボロのジーンズは商品として、輝いて見える様になった。
頭の中で、この価値が転倒するに至るまでのメカニズムを解析する為に、ネットワーク理論、ゲーム理論、ベイズの定理(新しい情報をもとに確率を更新する方法)を使う。
この様な結果が齎される、最も大きい関数(解の数値への貢献度)になる要素は、大衆に総じて見られる、社会的に植え付けられた虚構でしかない大きな物語へのロマンス(理想の抽象的な平均像)に対する陶酔(集合的無意識の連帯感によるナルシズム)と、主観的な奇跡に対して、運命では無く確率的必然であるとメタ認知出来ない、セキュリティ機能の脆弱性だ。
数学という最も美しい論理の体系、究極の芸術である方程式が最も確度の高い結論を導いた。
最も資本を独占出来る期待値の高いビジネスモデルは、宗教だ。
そうと分かれば、心が躍った。もう迷いは存在し無い。チッどけ、大衆。おい愚民共、群れるな散れ。
天才(神)が通るぞ。