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トランプの時代遅れエネルギー政策、シェール生産環境の超進化から乖離
おはようございます!ニュース連動型おじさんだっくでございます。
今日は2/3、立春です。「立春(りっしゅん)」は、「二十四節気」の一つで第1番目にあたります。
現在広まっている定気法では太陽黄経が315度のときで実は2/4固定日ではありません。おかげで節分も押し出し前倒しでした。
冬の終わり・春の始まりを意味し、春の気配が立ち始める日という意味、まだまだ寒いですけどね。
さて、そんな寒い折、北米大陸ではトランプ大旋風で国家間の関税戦争が巻き起こり熱い火花を散らしています。
アメリカ合衆国が隣接するカナダとメキシコにほぼほぼ一律の関税25%を附与、当然二国も報復関税を宣言しました。
以前から経済関係者からは筋の悪い話と酷評されていても、タリフマンことドナルド・トランプ大統領は悪い意味で有言実行の男です。やってしまいました。
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筋が悪いことでは定評があるトランプ、実はアメリカの石油業界からも「おいおい、爺さん、現実を見ろよ」と言われていることをご存じでしょうか?
本来であれば、「MAGA!!MAGA!!トランプわっしょい!トランプわっしょい!!」の筈です。
一体どうして運命共同体の筈のアメリカの石油業界が、後ろからヘッドショットを狙う事態になる(なってないけど、ノリで)のでしょうか?
その背景をお話ししましょう。
過去の成功体験に縛られたトランプの認識
トランプの石油・天然ガス政策が、現代のエネルギー産業の実態と乖離している実情が浮き彫りになっています。
トランプの経済政策、特に通商政策と石油産業に対する認識は、1970年代の重商主義的な古い考え方と単純な増産政策に基づいているように見えます。
関税を課せば全ての問題が解決するかのような単純な発想は、現代のグローバル経済の複雑さを理解していないことを示しています。
この時代錯誤な認識は、石油産業に対する政策にも大きく表れているのです。
トランプ大統領は「掘って掘って掘りまくれ」という大号令を発していますが、これは現在のシェール産業の実態とは大きくかけ離れています。実に皮肉で実に喜劇的ですがね。
シェール革命は既に量から質へ
2000年代後半から始まったシェール革命は、確かに「掘って掘って掘りまくる」時代でした。
水平掘削と水圧破砕という革新的技術により、石油とガスの生産量は歴史的な増加を見せました。
水平掘削技術の進歩
水平掘削技術の進歩により、1つの坑口から複数の水平坑井を掘削したり、水平部分の距離が2kmを超える坑井も出現するようになりました。
これにより、従来の垂直井と比較して、貯留層との接触面積が大幅に増加し、生産性が向上しました。
水圧破砕技術の革新性
水圧破砕技術は、高圧の流体を坑井に注入して人工的に亀裂(フラクチャー)を作り出し、石油やガスの流路を確保します。
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この技術により、従来は経済的に採取が困難だった低浸透率の貯留層からも、効率的に資源を採取できるようになりました。
水平掘削技術、水圧破砕技術という二つの技術の掛け合わせ
これらの技術の組み合わせにより、坑井の生産性は大幅に向上しました。
例えば、従来の技術と比較して、掘削仕上げコストは2〜3倍になりましたが、期間あたりの生産量は4〜5倍に増加。
この技術革新は、特に北米のシェールガス・オイル産業に大きな影響を与え、「シェールガス革命」と呼ばれる現象を引き起こしたのです。( 米国の「シェール革命」による変化 資源エネルギー庁)
その結果、米国のエネルギー生産量は歴史的な増加を見せ、世界のエネルギー市場に大きな変化をもたらしました。
量的拡大から投資効率重視へと風向きは変わった
しかし、この量的拡大の時代は終わりを迎えつつあります。
2015年以降の原油価格の低下により、シェール開発企業はコスト削減を迫られました。
さらに、新型コロナウイルスパンデミックによる需要減少と価格暴落が追い打ちをかけ、シェール産業は量的拡大から投資効率重視へと大きく方針転換せざるを得なくなりました。
現代のシェール産業の効率性と技術革新
現在のシェール産業は、単純な増産ではなく、生産効率の向上に注力しています。
ハイテク技術を駆使して、より少ない投資でより多くの石油・ガスを生産することが目標となっています。
高度なデータ分析と人工知能の活用
具体的には、高度なデータ分析と人工知能の活用が産業の中心となっています。
地質データや生産データをAIで精密に分析することで、最適な掘削地点や生産方法を特定し、無駄な掘削を減らすとともに成功率を飛躍的に向上させています。
エクソンモービルは、AIモデルを導入して石油探査の効率を高めています。
このシステムは、リアルタイムの地震データと過去の掘削記録を分析し、海洋環境における天然の油層をより正確に検出することを可能化。
ファーウェイは、石油・ガス探査に特化したクラウドシステムを開発しました。
このシステムは、AIとビッグデータを活用して10ペタバイトもの過去の探査データを再分析し、新たな価値を引き出すことに成功。
これらの技術は、従来の試行錯誤的なアプローチ を大きく変革し、より科学的かつ効率的な資源開発を可能にしています。
精密な水平掘削技術の発展
同時に、精密な水平掘削技術の発展も見逃せません。より長く、より正確な水平坑井の掘削が可能になったことで、一つの坑井からより広範囲の資源にアクセスできるようになりました。
これにより、掘削コストを抑えつつ生産量を増やすという、一見相反する目標を同時に達成することが可能になっています。
水圧破砕技術も大きく進化
さらに、水圧破砕技術も大きく進化しています。使用する流体の組成や圧入方法が最適化され、より効果的にシェール層を破砕できるようになりました。
この技術革新により、少ない水と化学物質でより多くの石油・ガスを回収できるようになり、環境負荷の低減とコスト削減を同時に実現しています。
水圧破砕法も進化する一方、代替する技術も生まれています。それもCO2という厄介者を使った上手いやり方です。
マイクロサイズミック技術の高度化
マイクロサイズミック技術の高度化も、効率的な生産に大きく貢献しています。
地下の破砕状況をリアルタイムで観測し、cm単位で3D画像に再現することが可能になりました。これにより、水圧破砕の効果を最大化し、生産性をさらに向上させることができます。
このようにフラクチャーの進展をリアルタイムで正確に監視することで、水圧破砕の効果を最大化し、不要な作業を減らすことができるようになりました。
この技術は、生産性の向上だけでなく、安全性の確保にも大きく寄与しています。
多段階フラクチャリングによる生産性向上
多段階フラクチャリングの技術も、生産性向上に大きな役割を果たしています。
一つの水平坑井で複数の地点を同時に水圧破砕することで、生産性が大幅に向上しました。
この技術により、従来よりも少ない坑井数で同等以上の生産量を達成することが可能になっています。
環境に優しさへの配慮も
さらに、環境への配慮も技術革新の重要な側面となっています。
水の再利用技術や、メタン漏出を最小限に抑える技術の開発により、環境負荷を減らしつつコストも削減するという、一石二鳥の効果を生み出しています。
AIを活用して航空写真、衛星画像、リモートセンシング・データを分析し、油流出やパイプラインの漏れを迅速に特定する取り組みも進んでいます。
これにより、環境破壊を最小限に抑え、汚染物質の拡散を防ぐことが可能になっています。
これらの取り組みは、シェール産業の持続可能性を高め、社会的な受容性を向上させる上で重要な役割を果たしています。
単なる「掘って掘って掘りまくる」時代から、より洗練された効率的な生産へ
これらの技術革新の総合的な結果として、シェール産業は単なる「掘って掘って掘りまくる」時代から、より洗練された効率的な生産へと進化しています。
この戦略転換により、トランプ大統領の「ドリルベイビードリル掘って掘って掘りまくれ」という政策は、業界の実態とかみ合わなくなっています。
実際、大統領の増産促進策に対する石油株の反応は鈍く、市場はこの政策の有効性に疑問を投げかけています。
政策と現実のギャップと近づく失望の声
トランプ大統領の石油・ガス政策と現実のギャップは、近い将来、支持者からの不満を引き起こす可能性があります。
「トランプ大統領はあんなことを言っていたけど、現実は違うではないか」という声が上がるのも時間の問題でしょう。
実際問題、個々の掘削現場での含有量には限界があることが明らかです。この現実は、単純な増産政策の限界を示しています。
生産量の伸び率鈍化が顕著です。
そもそも石油業界は生産量が伸びなくなっている
シェールを含めた全体の生産量は10年代前半は2ケタ成長が続いたが、最近では19年に前年比12%伸びたのを最後にマイナスか1ケタ台の伸びにとどまっています。
2023年の世界の原油生産は、2022年の5%成長から大幅に減速し、わずか1%の成長にとどまりました。
OPEC+諸国は2023年に大幅な減産を実施しました。サウジアラビアの原油生産量は9.3%減少し、ロシアも1.5%の減少を記録しました。
2024年にも大幅な減産を継続し、さらに延長しています。
世界的な景気減速懸念により、原油需要の伸びが鈍化しています。特に先進国(OECD諸国)では需要の伸び率が低下しています。
その景気減速を思い切り進めているのがトランプというのも皮肉と言えば皮肉。
確かに、米国(2023年に+8.5%)、ブラジル(+12%)、イラン(+10%)などの非OPEC+諸国では生産が増加しており、OPEC+の減産を部分的に相殺してはいます。
しかし、全体としては生産量の伸び率鈍化が顕著となっています。
従って、シェール産業を含む石油産業全体が、単純な増産戦略から効率性と技術革新を重視する方向へシフトしているのは、当たり前の結果なのです。
原油価格の下支えと市場の安定化を目的としたOPEC+減産を台無しにして、「自国アメリカの石油とシェールを輸出したい」「ロシアの戦争をやめさせるために石油価格を下げろ!」と頭ごなしに上からものを言うトランプ。
OPEC+の人達からすれば「くびり殺してやりてえ、このクソボケがーーっ!?!」です。
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味方の筈のアメリカ石油業界が「や、トランプさん、その程度で矛を収めてもらわないと困りますよ(マジで頼むよジジイ。迷惑だから明日辺り不摂生で死なねえかなあ)」となっています。
当然ちゃ当然ですが、当人は良いことをしているつもりなのです。
シェールガスだって、いつまで持つかは怪しいもの
確定的な話では無く、諸説入り乱れるところですが、地質資源が無限大なわけがありません。
「シェールの生産は近くピークを迎える。政策でも経済的なものでもなく、地質学的なものであり避けられない」。資源が枯渇しつつあると度々指摘してした米天然資源投資会社ゲーリング・アンド・ローゼンクワイクは、各種データを分析し、こうした見方を強めている。現在、シェールの生産量は比較的新しい油田の寄与分が大きいが、今後期待される未掘削の油田は生産性が低い見込みだという。有望な地域は掘削が進み、残った地域は含有量などの面で劣化が避けられないとみている。
枯渇論には異論もあるが、石油会社が規律ある成長を強く志向し始めた中で、劣化が明らかになれば油田の掘削を増やすことへの抵抗感や警戒感が強まってくる可能性はある。
そもそもシェールには地質学的な制約があります。
シェール層の石油・ガス含有量は場所によって大きく異なり、生産性の高い「スイートスポット」は限られるシェール層の不均一性、シェール井の生産量は初期に急激に減衰する地質学的な特性、水圧破砕技術の適用可能範囲がどこでもという訳では無い制約などです。
先に挙げた技術革新によりどこから取れるかを精密予測して無駄なく効率的に取れるようになり、精密な破砕方法や代替手段の開発も進んでいます。
つまり、技術革新により、シェール生産のピークは当初の予想よりも遅れるかもしれません。
しかし、あくまで延命です。究極的には地質学的な制約が生産量の上限を決定するということには変わりがありません。
エネルギー新時代に適応する政策の必要性
このようにトランプの時代遅れエネルギー政策のシェール生産環境の超進化から乖離は明らかです。
現代のシェール産業は、単純な増産ではなく、効率性と技術革新を重視しています。
政策立案者たるもの、この新しい現実を理解し、それに適応した政策を策定する必要があります。
そうでなければ、政策の効果は限定的なものにとどまり、産業界と政府の間の溝はさらに広がるでしょう。
「エネルギー政策の成功は、過去の成功モデルの単純な再現ではなく、現在の市場動向と技術革新を正確に理解する。そして、それに基づいて柔軟で可能な限り多様でどれを足場にしても大丈夫なようなミックスの方策を採用することにかかっている」と僕は思います。
残念ながら、古き良き時代を回顧して自国の中だけで引きこもれば上手く行くと考えるお年寄りが出る幕ではないのが現状です。
権力が自分に集中し全ての国民に一挙一投足を見られている状況で、公約として挙げたものに極力忠実でありたいトランプの姿勢も理解出来ないではありません。
しかし、自分が保護した筈の人達が困っていることを認めずに突き進んだ結果が良いものになる確率は低いでしょう。
この現実をアメリカ国民が理解するのは、とりあえずは関税戦争の結果としてのインフレを身を以て知る時です。
だから、今暫くかかります。ただし、そう遠い話でもありません。
あなたはどう思いますか?
ではまた
マシュマロやっています。
匿名のメッセージを大歓迎!
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読んでほしい本、
深掘りして調べて欲しいニュース、
取り上げて欲しいこと、エトセトラ。
ぜひぜひ気楽にお寄せください!!
日々、音声でも発信してるよ!内容は基本的に別物なので気に入ればどうぞ。
後はTheradsであれこれ流してます。結構辛口かも。
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