【ライトノベル?】Vオタ家政夫#25

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

25てぇてぇ『デートってぇ、大切な時間を共有しあう事なんだってぇ』

【101日目・累児視点】

 おっす、オラ、天堂累児。Vtuberである姉に家政夫として雇われているV狂いさ☆
 今日は、姉とおでかけ。
 姉はデートって言ってたけどね。

 デートって言うのは元々は社交的、もしくは恋愛的に交流を深めるためのものだから、まあ、前者であれば、まあ、問題はないよね。
 ちなみに、1990年代のとある調査で男性の5割は17歳時点でデートをしたことがあるらしい。でもな、2022年の内閣府の調査だと20代独身男性の4割がデート未経験らしいんだ。ウィ〇先生が言ってたからね。

 でもさ、どっちのデートかによって変わってくるよネ。

 というわけで、俺は今、前者のデートの為に姉を待っている。
 同じ家に住んでるのに何故か。
 姉が待ち合わせをしたいと言ったからだ。

「お待たせ」

 そうこう考えている内に、聞きほれる程の美しい声が聞こえ、姉がやってくる。

「ううん、待っている時間も楽しかったよ」

 これは決して俺の言葉ではない。姉のリクエストだ。
 それにしても……

「今日の恰好素敵だね、姉さん。良く似合っててかわいいよ」

 これは偽りのない自分の言葉だ。

 俺は学生時代デートというものをしたことがない。
 まあ、当時声優狂いからのV狂いが周りに認知されていて、多分女子からは引かれていただろう。
 だけど、【フロンタニクス】に居る時から、Vの買い物やネタ探しには良く付き合っていたし、その時に、気分良く楽しんでもらうために、どうすればいいかは死ぬほど勉強した。

 まずは、女性は服装とそれが似合っている本人を褒める。

「あ、ぅ……ぇへ、うん、ぁりがとう」

 喜んでいる喜んでいる。
 顔を真っ赤にして照れている所を見ると、姉さんも服装とか褒められて喜ぶ乙女なんだなあとなんだか嬉しくなる。
 それにしてもこんな純情乙女なリアクションは、【フロンタニクス】のあの子を思い出す。
 さなぎちゃんくらいピュアで……

「ねえ、累児……今、何考えてる……?」

 あれ? 数秒前まで純情乙女だった姉が、闇堕ちしているんだが?

「Vtuberの事だけ考えてるよ」

 姉さんに嘘はばれる。だから、ギリギリセーフなラインの回答でぼやかす。

「そう、まあ、累児だもんね」

 なんとかやり過ごした俺は姉さんとテーマパークに出かける。
 本当はこういうところには事務所のコ達と一緒に行って、てぇてぇを育んで欲しいのだが、今日は100万人突破記念だ。ずっと待たせてしまっていたし、姉さんに付き合おう。

「うふ、ねえねえ、累児見て、似合う?」

 嬉しそうにキャラクターの帽子をかぶる姉さんが可愛くて思わず笑ってしまう。
 そうだ。家族である姉さんと、推しのVtuberを同時に労うことが出来るなんて最高の時間じゃないか。

 姉さんは、【ワルプルギス】で最初の100万人越えVtuberということで最近どんどん忙しくなっているし、オフコラボを始めてから、配信量もさらに増えたので中々こういう時間がとれなかった。
 それに、姉さん自身も、まだまだ上をと考えて、俺に相談し、クオリティと配信量等色んな工夫をし続けていた。

 今日はいっぱい楽しんでリラックスしてもらおう。
 そう俺は心に決めて姉さんの後に続く。

 姉さんは子供みたいにいっぱいはしゃいで本当に楽しそうに笑ってくれた。
 俺はついついうてめ様と誰々が一緒にこれ乗ったらてぇてぇなあとか考えてしまって頬を膨らませた姉さんに怒られた。

 そういえば、

(姉さんはなんでVtuberに?)

 俺を溺愛してくれているのは分かる。
 でも、流石にそれだけでVtuberになるだろうか。

 ふとそんな事を思い、はしゃぐ姉を見る。
 姉さんは視線にすぐに気づき、首を傾げる。
 それだけで絵になる。

 姉さんは本当に美人だ。
 俺は父さん似で平凡な顔。でも、姉さんは母さん似。
 姉弟と言ってびっくりされたことも一回や二回じゃない。

「どした? 累児?」
「いや、ちょっと遅くなったけど、そろそろご飯にしよっか? 姉さんのリクエストで作ってきたからさ、飲食オーケーの場所に行こう」
「うん! うれしい!」

 本当に美人で、かわいい。その笑顔に思わずどきっとしてしまう。

 飲食スペースに移動し、お弁当を広げる。

「……ふふ、私の好物ばっかり」
「そりゃ、姉さんのお祝いだからね」

 姉さんは目を輝かせ手を合わせると、一つ一つ味わって食べてくれる。
 その美味しそうな顔に頬が緩む。

「ちょっと、聞いてみたいんだけどさ」
「スリーサイズは……」
「あ、それは大丈夫」

 姉さんの暴走を止めながら、俺は言葉を続ける。

「姉さんはさ、なんでVtuberになろうと思ったの?」
「累児がVtuberにハマりはじめたからよ」
「いや、でも、わざわざ声優学校に行ってさ。しかも、将来有望って言われてたのに……」
「じゃあ、先に聞かせて。累児はなんでVtuberにハマったの?」

 姉さんの大きくて綺麗な黒い瞳が俺を映す。

 平凡な俺を。

「俺は、さ。かっこ悪い人間なんだよ」
「そんな事ないわ」
「ううん、それは事実。俺はさ、多分、姉さんに劣等感を抱いてた。美人な姉さんに、平凡な顔の俺は劣等感を。なんで姉さんはこんなに綺麗な顔なのに、俺はこんなに普通の顔なんだろうって」
「それは……」

 姉さんが顔を少し曇らせる。そんな顔をする必要はない。これはどうしようもないことだから。

「なんて世の中は理不尽なんだろうって、厨二病の俺は思ってたんだよ。んで、アニメや漫画にはまった。ダサい主人公が無双して行く世界が気持ちよくて、それで声優さんにもハマった。声いいねって。顔とか関係ないよな、声はマジ魂だよなって。でもね、あの、本当に本当にそれは仕方ない事なんだよ? 仕方ない事なんだけど、声優さんもさ、どんどんかっこいい人とかかわいい人が出てきてさ。なんか、俺、勝手に、勝手にね、また劣等感抱いちゃったんだよね」

 本当に、俺は劣等感まみれの人間だと思う。
 本人たちだって、食っていくために、また、業界の為に、色んな活動をしているのに。
 勝手に、ズルいなと思ってしまったのだ。全然ズルくない。それは間違いない。
 ズルいのは俺だった。他人のせいにして自分を正当化しようとして。
 俺は勝手に苦しんで、勝手に世の中を恨んでいた。
 そして、クソな自分にまたヘコんでた。

「そんな時に、Vtuberに出会って。Vtuberはさ、ほんとピンキリだよ。凄い人、頑張ってない人、ヤな人、色んな人がいる。けど、色んな人がいるから、時々いるんだよね。俺にとって必要な人が。そして、俺を必要としてくれてる人が。劣等感まみれで、それでも、頑張りたくて、必死で戦っている人が。勿論、それは声優だって俳優だって他の職業だって一緒だと思う。でも、多分、俺にとっては、Vtuberが一番共感できたんだよ」

 応援したい存在が、自分より頑張っていて、自分の背中押してくれる存在が、俺にとってはVtuberだった。

「つまり、そういうこと。俺は、劣等感まみれだったから、Vtuberにハマった。……Vtuberに対しても失礼な話だよね」
「ううん。それでも、それだから応援されて嬉しいVtuberだっているはずよ。私だって、累児に応援されて嬉しいわ」

 姉さんはそう言って笑った。そして、遠くを見ながら、

「私がね、Vtuberになろうと思ったのはやっぱり累児がきっかけよ」

 ふわりと風が吹き、頬を撫でる。
 髪が揺らめく姉さんはどこか幻想的で、そう、うてめ様のような……。

「累児がさっき言った話でちょっと納得できたの。累児って耳がいいのよ」
「耳? そうかな? 別に普通だと思うけど」
「聴力の話じゃないわよ。聴き取る力っていうのかな。声で察する力が凄いと思うの。中学生の時のこと、覚えてないかな? 私が泣いた時の」

 覚えている。
 姉さんは滅多に泣かない。けれど、あの日姉さんは号泣した。

「普通に帰って来れてたつもりだったのよ。普通にただいまって言って……なのにさ、累児ったら今まで言ったことなかったのにいきなり『お姉ちゃん、大丈夫?』って……それ聞いて私泣いちゃって」

 そう、あの日姉さんが家に帰ってきた時の声が微妙に暗い気がした。
 俺は何とも言えない不安に駆られて声を掛けたのだ。

 『大丈夫?』って。

 そしたら、姉さんは泣き出して、話してくれた。

 姉さんは学校でいじめに遭っていた。
 姉さんは感情表現が正直うまくない。いや、あまり出さないようになったんだと思う。
 小学校のころから美人でモテていたせいで、女子からやっかみを受けていたらしい。
 それが中学校になって、エスカレートした。
 姉さんは負けちゃだめだと思って平然としていたんだけれど、心は限界だったようだ。
 その時、俺が声をかけたらしい。

 姉さんは俺に話してくれた。
 俺は、姉さんが少しでも元気になるよう一生懸命、何を言いたいのか耳を澄まし、何を言えばいいのか考えて、一生懸命姉さんを励ました。
 結局、いじめ騒動自体は曖昧にされてしまったけれど、姉さんにはちゃんとした友達が出来て、笑って卒業式を迎えていた。

「あの時の累児は、私にとってヒーローだったの。あの時思ったの。累児すごいって、私は、累児がだいすきだなあって」

 そうだ。
 俺もあの時思ったんだ。

 誰かの力になれて良かったって。
 俺でも役に立つことがあるんだって。

「累児はね、耳が良いのよ。ただ、聴力とか音楽的なセンスとかじゃなくて、魂の声が聞こえるんだって。そして、その声を聞いて誰かを助けられるんだって」

 姉さんは、俺を、そんな風に。

「私もね、そうなりたいと思ったの。そして、累児にとってそういう人でもありたいって。だから、累児の好きな、累児の力になれる存在になりたかった。それに、累児に聞いたでしょ?」

― 姉さん、Vtuberになろうと思うんだけど、累児はどう思う? ―

 確かに、聞いた。訊かれた。俺は、

― 姉さんならなれるよ、姉さんの声、俺、大好きだよ ―

 そう、言った。

「累児が、私の魂の声を聞いてくれて、そう言ってくれたなら絶対なれるって私、信じてたから。累児は私なんかよりずっとずっと凄くてかっこいい人だから」

 姉さんが笑っている、らしい。
 よく分かんねえ。ぼやける。
 ああ、情けない。
 この年になって泣いちゃうとか。
 いや、てぇてぇ配信見て泣いたりするけどさ。

 なんだよ、この姉、てぇてぇなあ。

 そのあと、姉さんは、俺の手を引っ張ってくれた。
 一緒に同じ時間を歩みながら家へと帰った。
 小さな声で、俺が小さい頃大好きだったうたを口ずさみながら。

 それはやさしいやさしい魂からの声だった。

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