英雄たちのアシナガおじさんが冴えない私なので言い出せない#14

第14話 おじさんの周りには色んなハートがいっぱい

「おはようございます! リアさん! 皆さん! 今日もよろしくお願いします!」

 緑髪で魔法使いの青年レクサスは、リア達に向かって元気よく手を振ってくる。
 あれからレクサスは自身のパーティーである【大樹の導き】との合同で依頼をこなすことを提案してきた。
 リア達にとっても自分たちより長く冒険者をやっている先輩たちのやり方を学べるならいい機会ということで了承し、二日に一度くらいの割合で一緒に依頼を引き受けている。

 勿論、その引き受ける前にもリアからアシナガに。

『アシナガ様 【大樹の導き】というパーティーが合同での依頼をこなすことを提案してきているのですがどう思われますか?』
『リアへ 今後の経験としてやってみるのはいいと思うよ』
『やります』

 ほぼノータイムで返ってきた返事にアシナガことガナーシャはいくつかの注意事項を慌てて送った。
 そして、今日も、【大樹の導き】との合同依頼の日で、やってきたレクサスは爽やかな笑顔でリアに近づく。

「お、おはようございます、レクサスさん」
「はい、リアさんは今日もお美しいですね!」
「おおおうつくしぃだなんて……そんな……」

 リアは縮こまってニナの背中に隠れる。

「そういう風に照れるのも可愛いですよ」
「どぅも……」
「あらあら、レクサスさん、ウチのリーダーを誑かさないでくださいね」

 ニナがそういうとレクサスは慌てたように手を振り、

「い! いえ! そういうつもりでは……あ、いえ、そういうつもりではありますが、前にも言ったように、リアさんに好きになってもらえるように頑張るだけです」

 そう、以前蜥蜴蛙の一件での告白はレクサスから本気だと改めて告げられた。
 その時のリアは、全く靡く様子ではなかったのであきらめるかと思いきや、

『俺は本気ですから! 頑張るので! 俺を、見ててくれませんか?』

 そう言って合同依頼の度にアピール。
 男性が苦手なリアも拒否反応を示していたが、レクサスの紳士な対応に徐々に心を許しているように見えた。

「あらら、これは手ごわいですね、ねえ、ケン」
「し、知らねえよ。誰が誰をすす……すきさえ! 冒険中に隙さえ見せなきゃ勝手に浮かれてりゃいいだろ!」
「あはは、ありがとう。ケンさん」
「さん付けるな! 気持ち悪いから! 年上だろ!」

 そんなやりとりを背中で聞きながらガナーシャは今日の依頼を相談する。
 相談するのは勿論。

「ガナーシャさん! 今日の私はどうですか?! 眼鏡ですよ! 眼鏡! ちょっと知的な感じがしませんか? ほれほれ!」

 とても知的には聞こえない話し方のアキである。

「あはは、アキさん。眼鏡とても似合ってますよ」
「いやったー! あ、ガナーシャさんも掛けてみます?」
「あ、僕も眼鏡自体は持ってますよ。部屋で読書するときなんかは……」
「えー、ガナーシャさんの眼鏡姿見たーい! ほらほら、掛けて下さいよお!」

 またニナ達に怒られないよう迫ってくるアキの胸を見まいと目を逸らした隙に、アキの眼鏡を付けさせられる。

「ちょ、ちょっと! あんた達! また何顔と顔を近づけて……!」
「あははー! やだなー! リアさん、ガナーシャさんの眼鏡姿が見たくてちょっと私のを貸してただけですよお。ねー、ガナーシャさん?」
「そ、そうそう……」

 ガナーシャが慌てて振り返ると、すぐそばにリアの胸が。
 アキに比べればそう大きくはないが間近に迫っているので驚き天井に目を逸らすと、その胸越しにリアの顔が。

「あ……!」

 顔を真っ赤にして口をパクパクさせているリアにガナーシャは苦笑いを浮かべる。

「えーと、リア、さん?」
「あー、もしかして、リアさんって眼鏡男子好きですか? いいですよね、知的な男性って」
「そそそそうなのよ! アシナガ様は、アタシの支援してくださってる方が時々眼鏡をかけてるって話だから! だから! 別に眼鏡をかけてるおじさんがってわけじゃないからね! 勘違いしてないでね!」
「あ、はい……もちろん」

 至近距離で顔を真っ赤にして迫ってくるリアの迫力にずり落ちた眼鏡を直しながらガナーシャは後ろに下がると、ぽよんとした感触が。

「きゃ、もう……ガナーシャさんったら」

 それがアキの胸だと気づきガナーシャの顔は真っ青になる。
 
「ガナーシャァアアアア! ふしだらなことしないで!」

 さらに顔を赤くし叫ぶリア。

「あらあら……」

 後ろで頬に手を添え絶対零度で微笑むニナ。

「いいいいいから! さっさと行くぞ! 煩悩まみれども!」

 リアと同じくらい顔を真っ赤にして怒るケン。

「リアさん! 俺も眼鏡掛けてみようと思います!」

 爽やかに宣言するレクサス。

 そして、

「「「「「「「「「「ガナーシャめぇえええ……!」」」」」」」」」」

 アキを狙う冒険者の男たちの嫉妬の声を聞きながら、ガナーシャは度が合わないのかそれとも今の状況のせいか焦点合わない目で、あはは、と笑っていた。

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