【ライトノベル?】Vオタ家政夫#45

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

45てぇてぇ『【重大告知あり】凸待ちってぇ、マジ勇気いるんだってぇ』

「さなぎちゃん……大丈夫?」
「だりゃっ、すぅー-、だぃじょぅぶぇっす……」

ASMR配信でも聞けないような超絶ウィスパーボイスでさなぎちゃんが答えてくれた。

今日はさなぎちゃんの【凸待ち10人来てもらえたら、告知できる枠】が行われる。
凸待ち配信。配信中にメンバーに突撃してもらい、トークをするのが今回の企画。

だけど、本人は昨日からずっと震えている。

「大丈夫? さなぎ? おっぱい揉む?」

ツノ様が尋ねると、さなぎちゃんは、

「あ……はい、大丈夫です。 あの、がんばります!」

そう言って笑う。そして、

「じゃあ、準備してきますねー! あははー」

自分の部屋へと戻っていく。

残されたのは、めっちゃ頑張って揉む気なのかと胸を突き出しているツノ様と俺。
ツノ様が真っ赤になってこっちを見ている。

「だ、だいじょうぶ~? おっぱ」
「大丈夫です! 無理しないで!」

若干涙目でこっちを見てくるツノ様。この人、ほんとギリエロの人なんだろうか。
男耐性が弱すぎる。

「いや~さなぎちゃん、無理してんね」
「ですね。……ところで、ツノ様、なんで割烹着を?」

「割烹着と言えば、日本のお母さん。溢れる母性でさなぎちゃんをバブバブさせて元気出してもらおうと思ったんだが」

真面目そうな顔で言うツノ様。まあ、冗談で笑わせることが出来たらと思ったんだろう。
この人はそういう人だ。

「あによ?」
「あ、いや、かっこいいなあって」
「んなっ……!」

俺がそう言うとツノ様は顔を真っ赤にしもじもじし始める。
しまった! デレ入った。

「んふふふ、んふふふ~。そう? でもね、ルイジの方がかっこいいよ。お父さん?」
「お父さん!?」
「一緒に娘のさなぎを励ましましょうね~」

小芝居が始まってしまった……。ツノ様こういうの好きだからなあ……。
ままごとの延長みたいなものだろうけど、ツノ様はよくコラボでやる。

ガガとのクソガキと分からせたいお姉さま編は伝説だった。
最終的に、メンヘラお姉さまが生まれ、クソガキ謝罪会見が始まった。
今日は奥さん設定らしい。

「あなたぁ~? お風呂にする~withアタシ? それとも、ごはんにする~椅子アタシ? それとも、ア・タ・シ、イズ、ア・タ・シ?」

やりたい放題か。
もし、この母親で、さなぎちゃんみたいな子が育ったら奇跡ではなかろうか。
いや、まあ、普通にツノ様は愛情深くて良い人だから、実際子供がいたらちゃんと育てるだろうけど。いいお母さんになるだろう。

いや、ちょっと待て……。

さなぎちゃんのお母さん?

あ。

「ツノ様! それ、脱いでください!」
「ほえ!? こ、こんなところで!? も、もっとロマンチックなところじゃないとや……じゃなくてぇええ! ナシね! 今のナシ!」
「いや、ツノ様落ち着いて!」
「そうねそうよねそうだわよね! すぅーはぁー。おっけ、心の準備整いました。

落ち着かせるために肩を掴んだ俺に対し、唇をすぼめるツノ様。

それって……つまり……キスってこと!?
じゃねーんだワ。

「違う、そうじゃない!?」
「ア、ア、アタシからってコトォオ!?」
「違う、そうでもない!」

二人して息を切らしていて、それをそーだに見られ、なんか納得した顔で去って行ったのが怖いけど、一旦無視だ。

「はあはあ、すみません……ツノ様、俺が悪かったです。その割烹着を貸してもらえませんか?」
「はあ?」
「俺がおかんになります!」

「さなぎちゃん……今、いいかな?」

俺は、凸待ち配信の準備をしているだろうさなぎちゃんの部屋をノックする。

『るいじさん? あ、はい……はい!? 部屋に入る! ということ、お部屋デート!? むむむーどなお香、どこに置いたっけ? あ、今日着てるのって……え、えーと、ちょ、ちょっとおまちください! 3時間くらい』

いや、それだと君の配信始まってるんだワ。妄想さな漏れひどいな。

「えーと、じゃあ、出て来てもらってもいい? 配信前にちょっとごはんもってきただけだから」

そう言うと、静かになる中。
そして、開かれたドアの奥には、真っ赤な顔のさなぎちゃん。

「あ、あの、すみません……わたし、ちょっと勘違いしてて……」

うん、結構勘違い口に出しちゃってたからね。
配信ではプロだからしないだろうけど、気を付けてね。

「それで、ごはんって……」
「うん、これ……」
「これって……」

さなぎちゃんの前に差し出したのはきなこをまぶしたおはぎをひらたくしたようなもの。

「これ、わかるかな?」
「……はい、そらきたもち、ですよね?」

そう、俺が作ったのは大分の一部で作られてるそらきたもちというものだ。
さつまいもと小麦粉、きなこが主だから作れてよかった。

「でも、なんで……?」
「むかし、一回配信でこれの話してたから。おばあちゃんとおかあさんが作ってくれたこれが食べたいって……そん時に調べて知ったんだけど、急な来客が来ても『そらきた!』ってくらいすぐにつくれるから『そらきたもち』って言うらしいね。だから、願掛け。そらきた! って、きっと来てくれるよ」

そう言って差し出したそらきたもちをさなぎちゃんは口に入れて、もぐもぐとしっかり噛みしめる。そして、呑み込むと、ぼそりと言った。

「ありがとうございます……。わたし、こわいんです。昔、いじめでまちぼうけされて、ずっとずっと一人で待ってたことがあって……勿論、凸待ち0人もネタになるから大丈夫って分かってるんですけど、でも、こわくて……」
「でも、さなぎちゃんはやろうと思った。それは、どうして?」

さなぎちゃんは俺の問いかけにしっかりこちらを見て答える。

「ビビってる自分を変えたいからです……! 十川、さなぎ、は……みんなと一緒に飛びたいから、わたしがビビッていちゃダメだからです。都会から逃げて、田舎に行った自分に戻りたくないから」
「そうだね。でも、一つだけ忘れないでね。君は都会から逃げたとしても、田舎でパワーアップして帰ってきた。もう一度飛ぶために帰ってきた。君の中に、もう勇気はあると俺は思うよ」

俺がそう言うとそらきたもちを一個がぶりと食いつき、ほっぺぱんぱんにしたさなぎちゃんが一度苦しそうにして部屋に引っ込み、口のまわり水ときなこだらけで帰ってくると、皿を受け取り、

「ありがとうございます。今は、ひとりじゃないですもんね、るいじさんにもらった勇気、ファンの皆さんにもらった勇気、ともだちや仲間にもらった勇気がわたしの中にあるから……。精一杯とんできます……ふふ、がんばるね、お母さん」

割烹着を着た俺にそう言って、さなぎちゃんは部屋に戻っていった。
小さな背中が大きく見えた気がした。

そして、配信が始まる。

『みなさん、こんさな~! 今日も一緒にみんなと、とぶぞ~。ワルプルギス所属十川さなぎです! 今日は、凸待ち配信、しししかも、10人来ないと告知出来ない配信ということで……あの、がんばります! きょ、きょうは、来なかった時の為にいっぱい色々用意しているので!』
〈こんさな~〉
〈とぶぞ!〉
〈たのしみたのしみ〉

『とととというわけで、えーと、まず最初に……はわあああ! ……えーと、一人目きました……』
〈早い恐ろしく早い凸〉
〈俺でなきゃ見逃しちゃうね〉
〈よかったー!〉

さなぎちゃんは嬉しそうに凸してきたワルメンと話始める。
正直、今回の告知内容について他のワルメン達は想像がついていただろうから結構な数が来ると踏んでいて俺はまったく心配していなかった。それに。

『えへへへへ~、凸ありがとうございます~』

ここまで勇気を持って頑張ってきた彼女ならきっとうまくいくと思った。
それだけだ。

だけど、心配なことが一つ、俺には合った。

その心配は残念ながら的中してしまう……。

『えーと、残り4時間で10人達成しちゃったんですけど……わたしのソロ配信でだいじょうぶです?』

速攻で10人が立て続けに凸してきた為に、すぐに終わった。
今回は、マネージャーさんが3時間もあれば十分ですって言ってたのにかたくなにさなぎちゃんが『6時間でお願いしますぅううう! さなぎ如きゴミムシが3時間で10人もきてくれるわきゃねーしょおおお! ぼっち舐めんな!』と主張した為に、6時間の枠を立てていた。
まあ、達成したから終わってもいいっちゃいいんだけど、みんなとの約束を守りたいさなぎちゃんはそうはしないだろう。

『じゃ、じゃあ、達成というころで告知しちゃいますね、えへへ……』

この配信で彼女自身もワルプルギスのVtuberとして認められていることをより実感してくれたことだろう。きっと、アレでも彼女は高くとんでくれるはず。

『あ、あの! 年末に! ワルプルギスの夜2nd~24時間ワルメンかわるがワルナイト~が開催されます! 是非、ごりゃんくだしゃああ!』

盛大に噛んだ。さすが、さなぎちゃん。

さて、告知も行われた。

年末ワルプルギスイベント、ワルメンバー総動員の一大イベントだ。

もう少しで始まる本番に向けて、俺も全力で支えますか!

『えーと、じゃあ、歌いますね』

うん、さなぎちゃんの配信をゆっくり見ながら色々作業しようかな。

まあ、このあと、他のワルメンもやってきて配信自体は平和に終わった。

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