【ライトノベル?】Vオタ家政夫#26

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

26てぇてぇ・くねぇ『弱ってる時ってぇ、正常な判断が出来なくなるから気を付けてぇ』★

【100日目・楚々原そーだ視点】

『あの、今日もご覧いただきありがとうございました! 明日もいい日になりそーだ★ じゃあね、がんばれぶい!』
〈なりそーだ〉
〈がんばれV〉

「ふう……」

私、『楚々原そーだ』は配信を終えて、横の蓋つきタンブラーに入れておいた水を口にする。

 楚々原そーだ。
 【フロンタニクス】の新人Vtuber。青髪の清楚な女の子。それが私だ。

「悪くはなかったと思う、けど……」

 良くもなかったのだろう。
 コメント、スパチャ、登録者数の伸びが如実に語っている。

 最近、事務所の空気が重い。
 ウチの二枚看板だった引田ピカタ先輩が引退し、小村さんも卒業を考えているらしいし、同期も何人か辞めた。

 私は、辞めた所で次があるか分からない。
 だから、今、必死に頑張っている、けど。
 数字は伸びない。

 社長はイライラしてるし、それに社員さんもイライラして、タレントの皆さんもイライラしてる。怖い。

「こんな時、天堂さんがいてくれたら……」

 天堂さんは、新人を一手に引き受けてくれていた社員さんで、いつも私達を励ましてくれた。

『君の声は、凄く綺麗だ。絶対に良いVtuberになれる! それにあった企画どんどん考えようぜ!』

 そう、言ってくれてたのに。
 優しい人だった。頼りにしてた。でも、もういない。

 自分の心がどんどん弱っていくのを感じる。

 水を飲む。潤う。でも、乾く。
 不安で不安で仕方ない。私はこれからどうなっちゃうんだろう。

「このまま、ただ、配信してていいのかな」

 スマホが震える。怖い。
 画面を見て、ほっとする。あの人からだ。もしかして……

『明日は会えるよ。どこか行こうか』

 頬が緩む。私を支えてくれるあの人。久しぶりに会うことが出来る。

 翌日。
 待ち合わせ場所に遅れてだけど、あの人は来てくれた。

「ごめんね、遅くなって。ちょっと昨日、編集遅くまでやってて……」
「いえ、大丈夫です。こ、こちらこそありがとうございます。お忙しいのに」

 にこりと笑う茶髪の素敵な彼。

 リキッドさん。
 最近、【フロンタニクス】に所属することになった男性配信者さんだ。
 顔もそうだけど、声もかっこいいから今のウチではトップ。それに、優しい。
 出会ったばかりの私に、

『大丈夫? この業界では俺、先輩だし、何でも相談してね』

 そう言ってくれた。それに、【フロンタニクス】の空気が悪くて悩んでいた時も、

『大丈夫。任せて。俺が、この事務所を引っ張るから……だから、そーだは、俺の傍にいてくれないかな?』

 そう、言ってくれた。天堂さんもピカタ先輩も同期の仲良かった子も居なくなった私にとってリキッドさんは頼れるカッコイイ先輩だった。
 そして、リキッドさんは私の事が好きだといってくれた。

 私を支えてくれると言ってくれた。

 リキッドさんは忙しくて中々会えないけれど、こうして、時間が会う時はデートもしてくれる。

 私の恋人。

 今日はテーマパークに連れて行ってくれた。
 リードしてくれてかっこよくて、私は『えへえへ』って笑うことしか出来なかったけどそれでも笑ってくれて、短い時間だけど、楽しかった。

 その帰り道、『あの人』に出会った。

 凄く綺麗な黒髪の女の人と手を繋いで歩くあの人を。

「あ……!」
「……!」

 向こうも気づいてくれて、恥ずかしそうに小さく会釈して、綺麗な女の人と一緒に帰っていった。しあわせそうだった。

「……ねえ、さっきのあの女の人と一緒にいたアイツ誰? 知り合い?」
「あれ、は……その……」
「……そっか。うん、しょうがないよね。そーだちゃんにも隠し事の一つや二つあってもおかしくないよね」

 その言葉がなんだかとっても冷たく感じて、手を放された感じで、慌てて口を開く。

「いえ! あ、の……あの人は、ウチの事務所に居た、りっ……くんと入れ違いで出て行ったフロの社員の人です。天堂さんって言う……」
「へ~、なるほどなるほど……ありがとな、話してくれて。うん、じゃあ、そろそろ行こっか」
「いえ、ごめんなさい。今日は私、配信の準備もあるし、やめときます……」
「……そっかそっか、分かった。残念。じゃあね」

 私は喋ってしまっていた。あの人の事を……。

 それがなんだか後ろめたくて、リキッドさんの『お誘い』を今日は断ってしまった。
 なんでだろ、あの人を見て、なんか色々思い出したせいかな。
 なんだかリキッドさんが怖くなった。
 これじゃあ、今まで怖さや寂しさを埋めるために身体を委ねたみたいじゃないか。

 私はもう、ずっと……最低だ……。

 次の日、私は【フロンタニクス】に呼び出され、社長室にいた。
 社長室なんて久しぶり……何事だろう。もしかして。

「そーだ、ちょっと困るなあ」
「な、何がですか?」
「お前……リキッドと繋がってるだろ」
「え……? なんで……?」
「困るんだよなあ……ウチの男性Vtuberのトップに絡まれたら……人気商売なんだし、アイツに今そういう噂流れても困るし、お前もまだ新人なのにさあ」
「あ、あの……すみませんでした!」

 なんで? どうして? 誰が?
 そんな疑問が溢れて、汗となって流れ落ちた。
 じいっと社長が見つめてくる。
 クビになるのかな? 嫌だ。折角大手の事務所で憧れのVtuberのお仕事につけたのに。

「……悪いと思ってる?」
「は、はい!」
「ならさ、ちょっとウチの為にやって欲しい事があるんだよ……」
「え?」
「そーだちゃん、君さ、闇堕ちしてくれない?」

 闇堕ち? 良くアニメとかゲームでは聞くけど、どういうこと?

 私はその時は、そんな単純な疑問しか浮かばなかった。

 でも、その後の社長の話を聞いて震えた。

 でも、でも、私が、Vtuberである為に、それを、闇に堕ちることを、受け入れるしかなかった。

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