【ライトノベル?】Vオタ家政夫#23
クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
23てぇてぇ・かった『大切なものってぇ、失ってから気付くんじゃ遅いんだってぇ』★
【90日目・小村れもねーど視点】
アタシ、小村れもねーどはイライラしてた。
原因はいっぱいだ。
アタシがついた社長の発言力が【フロンタニクス】で弱まっていること。
ピカタが引退宣言をしてもアタシが居るのに【フロンタニクス】が落ち目だと言われていること。
新人たちが何人も辞めて、アタシがいじめているのではと噂されていること。
マネージャーが使えない事。
身体の調子が悪い事。
ツイてない事ばっかり起きている事。
昨日も【ワルプルギス】の新人の子と歌枠が被ってめっちゃ比較された事。
そして、登録者が伸びなくなっていること。
イライラしていた。
でも、アタシは配信者だ。
とにかく頑張って配信を続けるしかない。
それが……
ふと、くしゃっとした笑顔で励ますアイツの顔がよぎる。
「違う。アイツなんて関係ない」
小村れもねーどは、絶好調だ。
芸能人とのコラボももうやっている。
アイツよりもイケメンな人たちともコラボした。
なのに、なんでこんなに苛々するのか。
その日の配信はゲーム配信。丁度いい。
全てのイライラをここにぶつけよう。
『みなさーん、おつかれもん☆ 疲れたアナタにれもねーど。小村れもねーどです☆』
〈おつかれもん☆〉
〈待ってました!〉
〈おつかれもん!〉
いつもの挨拶。二人で考えた……
『……あはっ☆ じゃあ、今日はゲーム配信やっていくよー』
〈れもねーどゲーム配信は刺激強めで楽しみ〉
〈今日もすっぱい口〉
〈がんばれもん〉
ゲーム配信は、アタシの中でもテッパンで、
― ちょっとキツめの言葉がふとした瞬間に漏れるのが良いと思うんだよな ―
『……っ!』
今日はやたらと、アイツがチラつく。なんでだろ。
昨日の時間被ってた【ワルプルギス】の子の配信を後で見た時に圧巻で、ああ、絶対アイツ、るいはこの子応援するだろうなあと思ってしまったからだろうか。
― いいか、れもねーど。飽くまでちょっとだけキツめがポイントだから、抑える為にも ―
『うるっさいなあ』
〈ん?〉
〈なんか聞こえたか?〉
〈れもちゃん?〉
『あ、ああ、ごめーん☆ 内なるれもねーどがもっとファンサしろって』
〈ナイスうちれもん〉
〈お願いします〉
〈さすれも〉
頭がガンガンする。こういう時、るいなら、電話した時とかに気付いて、色んなものを用意してくれて何も言わずに渡してくれたりするのに……。
壁に貼り付けられたれもねーどの記念ポスターがこっちを見ている。こっち見んな。
無視だ無視。全部無視。アタシはアタシだ。
ゲームに集中する。ゲームはいい。ゲームは好きだ。
この集中した瞬間が、ゾーン入った瞬間がたまらなく好きだ。
みんなはイエローゾーンって呼んでるけど。
でも、今日は、すぐにそこから追い出される。
なんで?
なんで今日はこんなにうまくいかない?
イライラする。
〈今日は苦戦してるね〉
〈がんばれもん〉
〈登録者と同じく伸び悩み中かね?〉
コメントが煽ってくる。
こんなコメントのうまい返しなんていつもならいくらでも思い浮かぶのに。
〈れもん無言〉
〈がんばれもーん〉
〈なんか言えよ〉
イライラする。
〈だまれもん〉
〈やられもん〉
〈精々がんばれもん〉
どいつもこいつも分かってない。こっちだって身を削って戦ってるんだ!
『うるっさわねえ! やってんのはこっちなんだから外野は黙ってなさいよ! アタシの気持ちなんて知らない癖に!』
〈は?〉
〈外野?〉
〈いいすぎじゃね?〉
『くそ! くそ! くそお!!』
アタシは無我夢中でゲームで暴れ続けた。
そして、その日アタシは馬鹿みたいに暴れ、馬鹿みたいに炎上して、馬鹿みたいに叩かれた。
「あー……何やってんだか」
スマホの電源は切った。
パソコンも開かないようにしてる。
部屋は自棄になって暴れてぐちゃぐちゃだ。
こういう時はどうしたらいいか。
「そうだん……相談しなきゃ……」
『だれに?』
目の前の等身大ポスターのれもねーどがこっちを見ている。こっち見んな。
「誰って……」
誰だろう?
『今のマネージャー? でも、あれだけ色んなわがまま言って本当に力になってくれるかな?』
「……うるさいな」
『間違った事しちゃったって気付いてるんでしょ?』
「うるさい」
『ねえ、アタシ?』
「うるさいうるさいうるさい!」
アタシは手元にあったノートをポスターのれもねーどにぶつける。
バシンって音がしてノートが落ちる。
れもねーどはかわいい笑顔のまま笑ってる。腹立つ。
「何笑ってるのよ!」
ポスターを引き裂く。だからなんだ。意味ないことしてる。分かってる。
びりびりびりと音がして、れもねーどがいなくなる。
ふと、気づく。
「この、ノート……」
さっき投げて落ちたノートを拾う。
まっ黄色のド派手なノートにマジックペンの男らしい字で書かれている。
【Vtuberれもねーどの戦いの記録!】
るいの字だ。
そうだ。このノートは小村れもねーどとして始めて、初めてヘラった時に、渡された。
『なんかあったら、このノートに書いて一旦気持ちを置いといてください。で、伝えたくなったら俺にそのまま渡してください。もし、どうでもいいことだったり、寝たらすっきりしてることだと思ったら、塗りつぶしちゃってください』
アタシは本当にメンタルが激弱だから、すぐにダメになった。
その度にアレを書こう、アレも書いてやろうと思いながら配信を終えて、ノートに書き殴った。初日は多分ヤバすぎる内容だった。
でも、るいは、
『なるほど。じゃあ、一つずつ俺が解決策や対処法を考えてみるんでちょっと時間下さい』
そう言って、次の日、目を真っ赤にしてアタシの嫌な気分一つ一つに答えや考えを書いてくれた。その中にはアタシへのお説教もあったけど。でも、全部アタシの為だった。
どれも真剣に考えてくれていて嬉しかった。
それからアタシはそのノートに嬉しい気持ちも書くようにした。
そうしたら、るいもいっぱい笑って喜んでくれた。
るいはアタシにとって、かけがえのない存在だった。
そして、アタシは、るいに恋をした。
でも、決してるいはVtuberと恋愛するつもりはないと言って、しっかり線を引き続けた。
アタシは苛々した。
でも、この苛々はノートには書けない。
段々ノートに書けない苛々ばかりになってノートを使うことをやめた。
るいにどんどん当たるようになってしまった。
そして、るいを追い詰めすぎて、るいがアタシのマネージャーを二人体制にするよう会社に言ってしまった。
るいが裏切ったと思ってしまった。
他のVtuberのコのサポートもし始めて、ピカタもるいになつき始めて、アタシの怒りはどんどん見当違いの方向にいってしまった。
そして……るいを【フロンタニクス】から追い出してしまった。
それでも、それでも、るいは出ていく時でさえ、
『お前はどう思ってたか知らないけど、俺はお前の事、本当に頑張り屋で凄い奴だと思ってる。ただ、何回も言ったと思うけど、どんなにストレス溜まっても周りの人にぶつけるな。頼れ。周りを信じろ。じゃあな』
そう言った。Vtuberれもねーどを心配してくれた。そして、
『画面の向こうで応援してるよ』
応援してくれたんだ。別れの時でさえ。あのVtuber馬鹿は……!
ノートを開く。表紙裏にはデッカイ男らしい字で。
【困ったら頼る! ひとりじゃない!】
そう、書かれていた。
「るい、君……ごめん……ごめんね、アタシ、ひとりに、自分からひとりになっちゃった……!」
くしゃくしゃになったれもねーどのポスターが滲む。
「う、うわああああああああああ……」
小村れもねーどを破り捨てた、アタシ、観音寺寧々は、たったひとり、暗い部屋の中で一人。
誰にも届かない声で泣き続けた。